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相変わらず目の保養なんです。

次の日は遅刻ギリギリだった。 いつも余裕を持って出勤しているため、遅刻にはならなかったが、慌てていた。 朝帰りしたまま廊下で寝落ちた誠一の服を剥がし、オヤジ臭いタンクトップとトランクスのまま風呂場に放り込むまでに時間をとられた。 あの状態では誠一は恐らく昼からの出勤に間に合うかどうか。 顔合わせや打ち合わせはなかったか。 エレベーターを待てず階段で駆け上がる。 ふと話し声が聞こえ思わず足を止めた。 「大丈夫ですか?」 「心配するならちょっとは抑えろよ」 「夕べは遥さんが誘ったんですよ!」 「そうだけど!あんな!あんな…」 鼻血が出そうだ。 いや、でももう少し… 「あんな、何ですか」 「……お前がダダ漏れすぎるから…」 「ダダ漏れ?」 「好きとか、そういうのが…」 あ、もうダメだ。 聞いたことのない遥さんの甘えるような声に、侑司さんの意地悪そうででも宥めるような声。 鼻の粘膜だけじゃなく口から他の粘膜まで爛れそうだ。 本当に溢れてきそうな鼻をハンカチで押さえながらヒールの音を立てて階段を上がる。 事務所前の階段に差し掛かり見上げるともういつもの二人が笑った。 「真由ちゃん、おはよ」 「おはようございます」 遥さんの耳が赤い。 その耳を盗み見るような侑司さんの笑顔が柔らかい。 「おはようございます。遥さん、侑司さん」 挨拶を返しながら思った。 もう少しこの二人を見ていたい。 ううん、いつまでも見ていたい。 この萌える感情を揺るがしてくれるような人と出会うまで私はこの二人の一番のファンでいたい。 事務所のロックを解除する手が止まる。 やっぱり鼻の粘膜が甘い二人に耐え切れなかった。 鼻血を出す私を見て慌てる二人を見ながらお風呂場に捨ててきた誠一にごめんねと謝った。

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