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俺は心配なんです。
暑い。
この暑い中ネクタイを締めるなんて文化を作ったのは誰だ。
慣れていても暑いものは暑い。
さっきからYシャツの下にTシャツを着ろ着ろと言い続ける男も暑苦しい。
「もーしつこい。暑いからTシャツなんか着たくない」
「何言ってるんですか!着ないとちっ」
「…………ち?」
「ちっ、乳首が透けるじゃないですか!」
顔を真っ赤にしながらTシャツを握り締め力説するダーリン。
「汗だくにでもならない限り透けねーって」
「だからその汗だくになったらどうするんですか!俺の乳首ですよ!」
朝だ。
朝から何を言ってんだ。
「そもそも俺はそんなに汗をかかない。それに今日は内勤。そして、俺の乳首であってお前の乳首ではない」
くだらない言い合いをしているうちに出勤時間が迫っている。
終わりと言って侑司の髪をわさわさと撫でる。
納得してない顔を隠そうともせず、クローゼットを出る俺の後に侑司が続いた。
少し急ぎながらマンションを出る。
暑い…
木なんかそれほど見当たらないのに蝉の声が五月蝿い。
俺の後ろをとぼとぼと着いてくるダーリンの拗ねた顔も五月蝿い。
「まだ納得してねーの?」
「………俺のです」
「え?」
「遥さんの乳首は俺のです…」
ふはっと笑いが出た。
そうだよと笑って髪を撫でるともう既に焼けそうなほど暑くなった髪と頭皮。
いつまでたっても俺に弱い侑司。
その侑司に俺が弱いってことは言ってやらない。
俺の全部はお前のモノだよ。
そう言うとくしゃと顔を崩してはいと笑った。
その笑顔を誰にも見せたくないと思っているのも言ってやらない。
墓に入る前には言ってやるか。
そう思ってからまた笑いが漏れた。
うん、俺もベタ惚れなんだ。
いつまでたってもちょっと残念な俺だけのイケメンに。
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