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兄嫁はうちの家族を救う。
後ろ姿からも両親の喜びがわかる。
二人に少し遅れて玄関に行った私に気付き、遥さんがニコッと笑った。
「那奈ちゃん!久しぶり」
あぁ………世の中の男どもよ。
数ミリでいい、遥さんの爪を飲み込んでほんの一瞬でいいからこの笑顔を出せるようになれ。
そうすれば世界中から争いは消える。
間違いない。
どこの来賓を迎えたのか、両親にさあさあと案内されながら遥さんが奥へと連れていかれるのをむさ苦しいおにぃと二人ただ見送った。
「元気か?」
相変わらず無駄に顔だけはいい。
いや、声も……まぁいい方なのかもしれないが。
「まあね」
「仕事忙しいんだろ?ちゃんと食ってんのか?」
「今日元取って帰る」
そう言うとふはっと笑い落ちて目にかかった髪を避ける。
左手の薬指には遥さんとお揃いの指輪。
紙切れ一枚とは言え、法で守られた夫婦にはなれない二人。
だからだろうか、柄にもなく応援なんてものをしたくなるのは。
傍から見ても大事に思い合う二人。
何年も通い詰め頑固親父を説き伏せたと聞き、泣き咽ぶ両親を慰め飽きた頃、凄いと思った。
遥さんが頑固親父を絆したのはおにぃだと言ったからだ。
凄いのはおにぃじゃない、遥さんだ。
昔から何をしても誰と付き合ってもさほど関心のなさそうな心のないようだったおにぃが何年経っても夢中な遥さん。
遥さんのためだから何年も遥さんの実家に通い詰めるなんてことが出来たんだ。
たぶん遥さんしか見てないおにぃは自分でも気付いてない。遥さんによって変わった自分に。
遥さんは可愛くて美人なフェロモン嫁、でもきっとそれだけじゃない。
遥さんはーーーー不思議だ。
それが何故かわからない限りたぶんみんな遥さんに夢中なままなんだ…
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