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兄嫁はうちの家族を救う。
やたらいい肉が、色とりどりの野菜が、網の上で焼かれている。
その煙の来ない風上に遥さん。
煙を浴びまくる風下に私。
……………おかしくない?私、娘だよ?
煙を浴びまくって美味しそうな匂いになって変な男が釣れたらどうしてくれるんだ。
「那奈ちゃん、こっちおいでよ、そっち煙凄いじゃん」
さすが遥さん、相変わらずのさり気ない気遣い。
焼くことに夢中になってる両親や遥さんの世話だけに忙しいおにぃとは違う。
私の座っていた椅子を持ち上げ遥さんの隣に運んでくれた。
「ねぇ遥さん…ずっと同じ人を好きでい続けるコツみたいなの、ある?」
ウーロン茶を飲んでた遥さんが動きを止めた。
「コツ、うーん……俺は元々好きな物とか変わんないからなー」
「私、秒で変わる」
私の言葉に遥さんがふはっと笑った。
「例えばさ、俺卵が好きなんだけど、卵だったらどんなのでも好きなの。ゆで卵もオムレツも目玉焼きも、卵なら全部好き」
全部好き、この部分だけを録音して目覚ましにしたい。
「でも、一回腹壊してから卵かけご飯だけは食べられない。つまり、なんてゆーか、大きな広い意味で、根っこのとこが好きなら嫌なとこがあっても好きでいられるんじゃない?」
なるほど。
つまり、おにぃの嫌なとこもある、ということか。
「おにぃの嫌なとこは?」
ぶつ切りにされたとうもろこしをハムスターのようにカリカリ囓っていた遥さんがまた止まる。
見ているうちに耳がじゅわっと赤く染った。
「自分より………いっつも俺優先なとこ」
それ、好きなとこじゃ?
おにぃは今も自分が食べるより遥さんに食べさせるいい肉を私から守るように焼いている。
「たまには俺にも世話させてくれてもいいのに、甘やかすばっかりなんだよ」
だからそれただの惚気だよね……
おにぃを見る遥さんはーーーー綺麗。
悔しい。
なんだろう、この悔しさ。
遥さんが自分に向いてくれないから?
遥さんが私の物にならないから?
…………違う。
私はまだ経験したことがない、本物の愛を遥さんは知ってるから。
本物の愛ってなんだ。
「ねぇ、遥さん。本物の愛って何?」
「愛?」
ひと粒も残さず食べられたとうもろこしの残骸をお皿に置いて遥さんが笑った。
「人それぞれ」
ほんの一瞬で散って消えたけど、私はこの人が好きだった。
胸に一筋の焦げも残さず綺麗さっぱり洗い流してくれたこの人はやっぱり綺麗でそしてとても不思議な人。
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