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進歩のない俺に呆れないでください。

「お前の匂い、汗の匂い好き…」 肩から首筋に擦り付けられる場所が移り、耳を擽るような甘える声に思わず唾を飲み込んだ。 「あの…誘ってます?」 「なんで」 首筋に顔を埋めた遥さんの表情はわからない。少し寝癖のついた柔らかい髪を撫でた。 「誘ってないならシャ、ワーを」 「お前って自分から来る時はびっくりするくらいがおがおすんのに、俺がちょっと誘うフリすると途端に慌てるよな」 なんだ、フリか。 ホッとしたようながっかりしたような。 息を吐いて遥さんの身体を抱き直す。 「自分から行く時は抑えが効くんです」 「え、あれ、抑えてんの」 びっくりした遥さんが顔を上げる。 その顔に噴き出すように笑ってしまいながらまた引き寄せる。 「あれでも抑えてんです。遥さんから誘われると抑えどころがわからなくて慌てるんです」 「もう七年も経つのに…?」 「はい。何年経っても、です」 できることなら閉じ込めておきたい。 仕事なんか行かないで毎日抱きたい。抱きつくしたい。 あなたが笑顔を見せるのは俺にだけでいい。 でもこの人は俺だけのものです、と見せびらかしたくもある。 俺だって驚いてます、いつまでもあなたに惹かれ続ける自分に。

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