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在りし日の彼を思う。
ビールに発泡酒、炭酸ジュースに乾きものに甘いデザート、
しょっぱいお菓子に辛いお菓子、山のようなチョコレート菓子。
レジの人が驚くほど買い込み、真由ちゃんが領収書を貰う。
くたびれた誠一さんの財布は真由ちゃんががっちりと握っている。
それぞれが両手に袋を持ちエレベーターでビルの最上階へ。
立ち入り禁止の屋上、今度はどんな手でビルオーナーを口説き落としたのか聞いてみたいような気もするが、やめておいたほうがいいと本能が言い聞かせている。
誠一さんがポケットから出した鍵で屋上へ出るとそこには既に簡易テーブルやパイプ椅子が用意されていた。
お菓子がテーブルに所狭しと広げられ、一緒に買ってきた紙コップに各々が飲みたい物を注ぐ。
コップを持った皆が、そうすることが極自然だとでも言うように誠一さんを見、皆の視線を受けた誠一さんが顎髭を撫でながら口の端を持ち上げニヤリと笑った。
「今年の夏もみんなお疲れさん」
音の鳴らない乾杯をした時、一発目の花火が上がりお腹の底に響く音と共に辺りを紅く染めた。
若者たち三人は柵から身体を乗り出さんばかりに花火を見上げ笑顔を浮かべる。
その背中をビールを飲みながらある思いを胸に浮かべながら眺めた。
この花火大会はこの地域で夏の終わりを告げる風物詩。
初めてこのビルの屋上で見た花火大会、それをきっと皆は忘れないだろう。
今愛しい人にチョコレートを食べさせてる彼はその花火を一つ見ただけで泣き崩れた。
あの時遥くんは息をする、それだけが唯一できること。そう思えてしまうほど彼は人間ではなく、精巧なアンドロイドのようだったーーーーーーーー
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