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在りし日の彼を思う。
登録の約束の五分前に現れた彼はとても若く、それだけで目を剥いた。
その当時登録に訪れるのは中年以降の年代ばかりで、若者はほとんどいなかった。
「よろしくお願いします」
まるで力の入っていない声でそう言い丁寧に頭を下げた彼を座らせ、持ち込んだ履歴書を見る。
24歳、やっぱり若い。
かなりの大手に勤めて僅か一年足らずで、退職…予定?
視線が定まらずぼんやりと宙を見る目の前の彼。血の気もなく表情もない。
整った顔はかっこいいというより綺麗と言ったほうが落ち着く。
まるで精巧に出来たアンドロイドみたいだ。
まずは、とタイピング能力を見るためにテストの説明をし、一旦面接室を出る。
お茶を用意していた真由ちゃんが心配そうな顔をしたまま給湯室から出てくる。
「あの人…大丈夫でしょうか」
格好こそスーツにネクタイ、きちんとしている。だが、今にも倒れそうな、常に支えてあげないと、と思わせる何かがあったのだろうか。
普段の彼を知らない私達では何を話しても憶測の域を出ない。
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