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在りし日の彼を思う。

タイピングは完璧に近い出来だった。 お疲れ様でした、と言葉をかけた所に真由ちゃんがお茶を出す。 お礼を口にしたが彼が湯呑みに手を伸ばすことはなかった。 「何か希望の職種はありますか」 通常通りに努める。 先程と同じように定まらない視線を少し浮かせた彼が薄い唇を開く。 「役に………」 「は?」 「人の、役に立てる仕事を………」 そんなの五万とありますよ、もっと具体的にお願いします。 そう言うはずが言葉が繋げなかった。 絞り出すように吐き出された言葉が立ち昇る煙のように消え失せそうだった。 ご紹介できるお仕事を幾つか選抜し改めてご連絡します、と彼を見送る。 珍しい若い客。 でもそれだけではない気がかりを彼は私達に強烈に残した。

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