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在りし日の彼を思う。

二度目に彼が来た時、事務所には全員が揃っていた。 いつもは新規開拓に忙しい誠一さんも泰生さんもわざわざ時間を開けて、いかにもこれが普通ですよの顔をして彼を出迎える。 二度目の彼はやはり血の気もなく表情もなく、彼の印象は白ではなく透明なままだった。 下手をすると消え去ってしまいそうな危うさを纏ったアンドロイド。 面接室には誠一さんも立ち会う。 とにかく話しをしよう。 面接室に入る前、誠一さんが私にそう耳打ちした。 「退職日は決まりましたか?」 私の質問に彼の薄い肩がびくりと揺れた。 「いえ、まだ……すみません」 「退職日がいつか決まらないとお仕事の紹介は難しいのですが」 その時微かな振動音がした。 彼の携帯が鳴っている。 どうぞと促すと彼はすみませんと断ってから携帯を取り出す。画面を見た彼が止まり、面接室に長く振動音が鳴り続けた。 「出なくていいんですか?」 誠一さんが人懐っこい笑顔を浮かべてもう一度どうぞと促すと彼は漸く通話ボタンをタップした。 途端聞こえた怒鳴り声。 彼が携帯を耳につける前から彼の名前を呼び怒鳴る声は確かに私達にも聞こえた。 出勤して来いという内容を怒鳴り散らしながら叫ぶ通話を誠一さんが切った。 「話してみないか?きっと力になれる」 誠一さんの落ち着いた温かい声色に彼がゆっくりと顔を上げる。 ただの真っ白に見えていた頬に微かに色が見えた気がした……

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