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在りし日の彼を思う。

「またやっかい事か」 ため息とともに古手川さんが面接室に入ってくる。 「よおー久しぶり、おさむん」 「おさむんて呼ぶな!全くお前はやっかい事の時と奢って欲しい時にしか連絡して来ない!」 「だっておさむんお金持ってるじゃん」 「いい年して金のない男なんかクズだ!」 「うわー傷付いたー」 目の前で繰り広げられる大型犬のようなじゃれ合いを、アンドロイドの彼と並んで見つめた。 私達の視線に気付き古手川さんが仕切り直すように咳払いを一つする。 相変わらず何の嫌味もなく高級スリーピーススーツを着こなすナイスミドル。以前会った時よりも全体的に髪が伸びた古手川さんは大人の男の魅力と何もかもを任せられる安心感と自信に溢れていた。 「で?先程掛かってきた電話は?」 「途中からだけど録音済み。本人と相手の名前もあちらさんがとても優秀でペラペラ喋ってくれたから楽勝」 いきなり始まった具体的な話と進行に置いてきぼりの私とアンドロイドの彼。 そこへ真由ちゃんがコーヒーを持って入ってくる。 「やぁ、真由ちゃん。ありがとう、また綺麗になったね」 「お前な、悪友の娘なんか口説いてるからいつまでも独り身なんだぞ」 「魅力的な女性を褒め愛でるのは男として当然だ。響子さんも相変わらずお美しい」 「はぁ…どうも」 とってつけたように言われ苦笑いを浮かべた。 私達の前にもコーヒーカップが置かれる。 アンドロイドの彼が真由ちゃんにお礼を言い、カップを持ち一口飲んだ。 「美味しい……」 コーヒーの香ばしい香りが面接室に漂う。 初めて感情の籠もった彼の声を聞き、なんだかとても嬉しくなった。 話を聞いてしまったからか、もう彼のことをただの客だとは思えなかった。 なんとかしたい。 なんとかして彼を助けたい。そう思った。 誠一さんが話を聞いたのは私がそう思うからだと目論んでいたからだろう。 それに気付き、悔しいけれどやっぱり叶わないなと諦めにも似たため息をそっと吐いた。

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