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※俺はあなたに酔いっぱなしです。

後一時間ほどでお開きにしようか、というところでどしゃあと雨の音が店の奥のこの座敷にも聞こえた。 遠くから雷の音も聞こえる。 タクシーが拾えなくなるかもと慌ててお開きになった。 皆が慌ただしく帰る準備を始める中、遥さんだけが壁に凭れてニコニコしている。 「遥さん、帰りますよ。立てますか?」 声を掛けた俺を見てニコッと笑うと遥さんはそのまま俺に凭れるように身体を倒してきた。 「侑司ぃ、抱っこぉ」 「は、はい」 遥さんの身体を抱きかけた俺に頭上から声がかかる。 「侑司、俺が抱っこするか?」 え?と見上げた時には藤次郎さんが遥さんの脚の下に腕を入れていた。 そのままあっという間に抱え上げられた遥さん。 「ちょ!っと!藤次郎さん!!」 「ほら、タクシーきてるってよ。はる坊、ちゃんと掴まってろよ」 藤次郎さんの首に腕を回された遥さんが薄く目を開ける。 「侑司じゃない…」 目を開けた遥さんがすぐに俺を見つけ腕を伸ばす。 「侑司、抱っこ!」 「あ、はい!」 苦笑いするしかない藤次郎さんから遥さんを受け取り抱き直すと遥さんの腕が首に巻き付いた。 「他の人に抱かせたりすんなよ、ばか……」 耳元で囁くように発せられた言葉は拗ねて甘えていて、思わず頬が緩む。 「帰りましょう、遥さん」 「うん…」 この人は俺のものだ。 俺だけのもの。 それを時々驚くほどこんな風に俺にも他の人にも当たり前のように知らせる。 だからいつまでたっても夢中なのか。 首筋に頭を擦りつける遥さんを強く抱き抱えたまま帰っていく皆を見送り、最後のタクシーに乗った。

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