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賑やかな月。
朝から|紀《きみ》が忙しない。
あぁ、そうか。
今日は遥達が来るのか。
「ごめんなさい、正さん。バタバタしちゃって」
居間で直立不動のおれに申し訳なさそうに紀が謝る。
気にしなくていい。
おれは忙しなく動く紀を見ていることしか出来ないんだから。
紀がおれを見てニコッと笑う。
夫婦をやって40年以上も経つと相手のことが手に取るようにわかる。
………誰が言ったんだ。おれにはさっぱりわからん。
だが、遥と侑司がこの家に顔を出すようになって、紀の表情は明るくなった。
まるで昔家族四人でいた頃のように。
教師の傍ら妻であり母親であり、紀は頑張ってくれていた。
結婚した翌年には薫が産まれ、出来ればもう一人と望んだが、中々授からず、おれも紀も半ば諦めていた時に遥を授かった。
薫が産まれた頃はまだ元気だったお袋も遥が産まれてすぐに長寿を全うし、薫を出産した頃とは状況が変わっていた。
新米だった紀も責任のある立場になり、産休一年で職場に復帰、遥に手をかける余裕がなく、事あるごとに遥のことを気にかけていた。
いつもおれたち両親ではなく、薫にだけくっつき甘えていた次男坊は知らぬ気付かぬ間にでかくなり、夢を尋ねることもできないまま地元近くの大学へ進み、早々と大手に内定を貰うと寂しがる素振りも見せずにあっけなくこの家を出て行った。
連絡という連絡もなく、父の日母の日、それぞれの誕生日に届く小さな花束だけが遥の存在を表す。
そうして何年が経ったのか。
突然の連絡に突然の結婚の知らせ。
連れてきた細いだけの女はニコニコと笑みを浮かべてはいるが、挨拶の声すらまともに聞こえなかった。
本当にいいのか。これから何十年と寝食を共にするというのに。
金を出すという親ではなくても出来ることしかできてこなかったおれにはそれを確かめる術を持ってなかった。
せめて人並みの幸せを。
そう願うおれたちに届いた薫からの連絡は戦慄を覚えたーーーーーーーーーー………
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