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賑やかな月。

「侑司」 「はい?」 台所で紀の手伝いをしていた侑司がおれの方を向いた。 「何か……困っていることはないか」 きょとんとした顔で侑司が止まる。 すぐ側にいた遥と紀まで同じような顔で止まっている。 「何もないですよ」 侑司が笑う。 「遥さんが俺と一緒にいてくれるなら、毎日が幸せですから」 ね?と侑司が遥の方を向くと、耳の上の方を赤くした遥がうんと頷いた。 「そうか……」 夕飯の準備に戻る3人を背に庭に出た。 幸せなんて同じ型にハメるものじゃないんだな。 それをこの歳になって知るとは。 それを……あの二人から教えて貰うとは。 「正さん、これ味見してみて」 紀の小さな手が肩に触れた。 小皿に乗せられた白い団子。その脇には爪楊枝。 「今日は中秋の名月ですよ。遥と侑司くんが作ってくれたんです」 ちらっと振り返った台所では侑司が遥に団子を食べさせている。 「そうか」 「……はい。綺麗なお月様が見られそうですね」 「あぁ」 団子を口に入れまだうっすらとも見えてない月の在り処を探すように空を見上げた。 「旨い」 「ふふ、良かった」 隣に腰を降ろした紀とまた空を見上げる。 静かに見上げたい月、それが今夜は賑やかな夜になるんだろうと知らずに上がる口角を下げながら。      

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