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あなたからならどんな愛でも。

「遥さん…」 伸ばした手に擦り寄るように頬がつけられる。 柔らかい感触の人肌とすっぽり収まる頬がかわいい。 傾けた顔を近づけると遥さんの長い睫毛が伏せられる。 このほんの一瞬の表情がたまらなく好きだ。 重ねるだけのキス。 食むように唇を動かすと少しの戸惑いの後同じように食んでくれる。 もうこれだけで滾る。 上唇をそっと濡らすと濡らした舌を軽く噛まれた。 おいたをするな、とでも言いたげなその行動に笑ってしまいつつもう少しと舌を滑り込ませる。 「ん、」 小さく漏れた声を合図にするかのように両手で頬を包み上を向かせ深く舌を差し込んだ。 「ん、ふっ……」 鼻から抜けるような声が艶めく。 たまらない……セックスの前戯のようにも感じる深いキスが好きだ。 そんな気はなくても実際にこうしてキスをすると催してしまうこともしばしばあるのだが。 緩んだ身体を押し倒そうとした俺の胸を遥さんの両手が押し止めた。 「嫌ですか…」 「お前、明日歯医者行ってこい」 「えっ!?」 甘い雰囲気が一気に吹き飛ばされた。 「くっ、くくくく臭いですか」 「どもりすぎ」 ふはっと笑った遥さんが俺の髪を撫でる。 「違う。何か違和感がある。だから行ってこい。それまでちゅーしない」 「ええっ!?」 まさにガーンという顔をしているだろう俺の額にちゅとキスをして遥さんが笑った。 「ちゃんと行ってこいよ」 「はい!」 遥さんとキスができないなんて、俺にとったら食事ができないのと同じくらい、それ以上に大事だ。 明日必ず行くと誓い、スマホで近くの歯医者を調べた。

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