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月が綺麗な夜に。

ロック解除の音がして、響子さんと侑司くんが入ってくる。 じゃんけんで負けた二人、おやつの買い出しに行き戻ってきたようだ。 「なんで私の席にいるの」 「ねぇ、響子さん。これ言われたら嬉しい?」 遥くんが本を開き響子さんに見せる。 「あら、ロマンチック」 にこりと笑う響子さん。 「そして、どけ?」 固まった笑顔のままで見下された遥くんはごめんなさいと小さな声で言い、すごすごと自分の席に戻っていった。 「はい、泰生さん。お団子」 「ありがとう」 午後から外回りの僕には持ち運べて車の運転をしながらでも食べるられる物。 さすが響子さん。 その時机に置いていた響子さんの携帯が震え、画面を見た響子さんの眉間に皺がよる。 響子さんの眉間の皺は照れからきてる。 それがわかったのはつい最近だ。 「出ないの?」 「…………………」 「藤次郎さんでしょ」 「…………………」 素直じゃないなぁ。 思わず苦笑いしてしまう。 紘都くんを出産してすぐに離婚したといつかチラッと聞いた。 その後お母さんの手助けを時々受けながらずっと一人で紘都くんを育ててきた響子さん。 いつも綺麗に化粧をして、いい香りをさせて、いつもたおやかで、そしてどこか精一杯隠しながら力んでいる。 弱みを見せまい、とでもするように。 響子さんが安心して背中をまた胸を預けられる相手が藤次郎さんならいいのに、とたぶん僕じゃなくても思うよ。

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