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いつまでも特別で。

「はぁ………」 悩み考えすぎてため息が出る。 「悩みますよねぇ……」 その声に我に返った。 面談中だったのを一瞬忘れていた。 俺の前で悩み腕を組むのは若佐さん38歳絶望中。 若佐さん38歳絶望中は転職5回目で、今回を最後の転職にしたいとうちに登録に来られた。 だが、若佐さん38歳絶望中の希望に合う会社がなかなかなく、面談はこれで3回目だ。 結婚を考えている彼女がいるらしく、その彼女から次に転職したら別れると言われているため真剣で必死だ。 それはわかるのだが……… 「若佐さん、条件をいくつか譲歩するか外すかしませんか」 若佐さん38歳絶望中が条件に上げているのは……… 家から30分以内の通勤時間。 残業なし。 ノルマなし。 土日祝休み。 営業、接客以外。 給料25万以上。 賞与年3回。 専門職の資格があるのかと聞けばあるのは運転免許のみ。 せめて通勤時間と接客以外を外せば紹介できる職は充分にあるのに。 そう何度か説得しているが、若佐さん38歳絶望中は首を縦に振らない。 「若佐さん、この条件ではうちでご紹介できるお仕事は…」 「水元さん、彼女います?いますね、ご結婚されて?」 言いかけながら俺の左手を見た若佐さん38歳絶望中がため息をついた。 「はぁ、まあ…」 「結婚てどうです?人生の墓場なんて言い方するヤツもいますが」 「僕は…遊園地のように思ってます」 「遊園地?」 「色んなアトラクションを二人で楽しみ、ハラハラもドキドキもし、協力してやり遂げたり、帰り際は寂しくもなったりしますよね」 「水元さんは彼女のこと大事に思ってるんですね…」 苦笑いを浮かべた若佐さん38歳絶望中は彼女ともう一度話し合ってきます、と頭を下げつつ帰って行った。 しょぼんと肩を落として帰る背中に再度会えるようにと声にしない言葉をかけた。

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