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幸せのお裾分け。

遥が産まれた時、一番喜んだのはばあちゃんだった。 「んまぁ、なんて可愛らしい…」 正直おれには真っ赤なサルにしか見えず、そんなサルを可愛い可愛いというばあちゃんにヤキモチを焼いていた。 これまでばあちゃんの可愛いはおれにだけ言ってくれていたのに、と。 これまで家にいなかった母さんがいつも家にいる。でもおれにはちっともかまってくれず、かまうのは赤くなくなったサルばかり。 寝ていたとばかり思ったらいきなり泣きだし、泣きだしたと思ったらずーっと泣いてる。見たいテレビの音も聞こえない。 寝ているだけのサルがお座りできるサルになった。 お座りできるサルがご飯を食べるようになった。笑い、呻くようになった。 ご飯を食べてくれないと母さんが父さんに愚痴ったけど、相変わらず父さんはそうかとしか言わない。 いつだったか昼寝して起きたら母さんがいなかった。 母さんの代わりにばあちゃんがいた。 「薫ちゃん、起きたん、よう寝とったねぇ」 ばあちゃんに抱っこされた遥は哺乳瓶でミルクを飲んでいた。 「お母さんは?」 目を擦りながら聞いたおれにばあちゃんが笑う。 「お母さんはねぇ、ちょっとお休みしとるよ。遥ちゃんのお世話に疲れたんやろね」 ミルクを飲み終えた遥をばあちゃんが肩に上げゲップをさせた。 あれ、母さんがするといつもゲップが出なくて後でミルクを吐いて母さんが慌てるのに。 「遥ちゃん、上手にできたねぇ、いい子いい子」 ばあちゃんにつられるようにして笑う遥。 何故か近くで見たくなった。 「薫ちゃん、ほら。遥ちゃんが笑とるよ」 近くに寄ったおれを見て遥が笑う。生え始めの小さい歯が可愛かった。 「薫ちゃん。薫ちゃんより小さいんやけん、遥ちゃんを守ってあげんといかんよ」 「え?おれが?」 「そう。たくさん教えて、たくさん怒って、たくさん見せて、たくさん守って」 「……おれが?」 「そうよ。兄弟やもん。薫ちゃんはいい子やけんお母さんを助けてあげれるやろ?」 「…うん!」 答えたおれの頭をばあちゃんがいい子と撫でる。 ばあちゃんに撫でられるのが一番好きだった。

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