101 / 215
幸せのお裾分け。
その日からおれの育児が始まった。
ミルクを飲ませる。ゲップはばあちゃん。
おむつを変える。うんちの時はばあちゃん。
ご飯を食べさせる。遥が嫌だと口に入れなかった物はばあちゃんがヨーグルトに混ぜたりかぼちゃやさつまいもと和えたり、ミルクや出汁で煮たりして残すことなく食べさせた。
ただのサルだった遥が這うようになった。おれやばあちゃんの後を一生懸命ついてくる。
「遥ちゃんは薫ちゃんが大好きなんやねぇ」
涎を垂らしながらも必死でおれについて回る遥をばあちゃんはいつも嬉しそうに見ていた。
サルが呻き、奇声を上げるようになる。
テーブルや箪笥に手を付きながら歩くようになってもまだサルだ。
よちよちと歩き出したサルはようやくまーとかあーとか言葉らしきことを口にし始める。
何を言っているのかわからないのに、ばあちゃんはいつも上手上手と笑いながら拍手している。
「ほら、薫ちゃんを呼びよるよ」
「えー?違うよ、ばあちゃん」
ほらほら、とばあちゃんに手を引かれ仕方なく遥の前に座る。
「あー、あーー」
「ほら、あーしか言ってないよ」
「あーちゃ、かー、ちゃ」
「ほら、薫ちゃんて」
ばあちゃんが拍手する。
「かー、ちゃ、かーちゃ」
「遥、薫ちゃんて言ったの?」
遥がにぱっと笑う。
おれの服の袖を小さな手がぎゅっと握る。
「かーちゃ」
この日からサルはおれの弟の遥になった。
ともだちにシェアしよう!