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幸せのお裾分け。
遥が二歳になった。
毎日元気いっぱいで、おれが学校から帰ってくるとばあちゃんは横になることが多くなった。
「かおちゃ、かわいー、たいしゅきぃ」
ばあちゃんの口癖を真似し何度も何度も遥が言う。
「ほっぺ、ほっぺ」
「え、また?」
「ほっぺ!ほっぺぇ!」
「…はいはい」
小さな手が頬に添えられむにゅと遥が口を押し付ける。
母さんが遥にするキスを真似して、遥もおれにキスをする。
父さんが買ってきたつみきで遊ぶ遥の横で宿題を終わらせる。
「おわったー!遥、終わったよ、いい子」
「かおちゃーいーお」
「いーこ、こ、だよ」
「いーお」
小さい手が前髪を撫でる。
友達と遊べなくても、習い事に行けなくてもかまわなかった。
この小さな弟はおれが守る。
たくさん教えて、たくさん見せて、たくさん怒って、たくさん守る。
寒くなる前に死んでしまったばあちゃんのお葬式でもそう約束した。
大きくなるにつれて遥はますます両親よりおれに引っ付くようになった。
母さんとは話しをするが父さんには近づきもしない。
忙しい両親に遠慮してか学校行事のお知らせもほとんど伝えなかった。寂しい気持ちを埋めるようにおれにはべったりで、小学校を卒業する目前までおれのベッドに知らないうちに潜り込み一緒に寝ていた。
友達と遊ぶより彼女を作るより、遥の世話をしていたかった。
おれの帰りを待つ遥がいる家に飛ぶようにして帰る。
洗濯物を遥が取り込み畳み、おれが料理をする。
おれが風呂掃除をする間に遥がトイレ掃除をする。
ずっと何年も何年もおれたち二人でやってきた。
それが当たり前で何の苦もなかった。
おれが大学を卒業して就職が決まるまで当たり前の生活は続いた。
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