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幸せのお裾分け。

「遥、大丈夫か」 「何回聞くの」 ふはっと遥が笑う。 就職を機におれは家を出て独り暮らしをすることになった。 遥はまだ高校2年生になったばかり。 ほんの数年前まではおれにべったりだった可愛い弟。見てくれがでかくなっても可愛いことに変わりはない。 転校することにはなるが、一緒に暮らそう。 何度もそう説得するおれに、遥は眉を下げて首を振った。 「もう何でも一人で出来るよ」 料理も洗濯も掃除も一通りおれが教えた。確かに何でも出来る。料理だけはイマイチだが。 でも寂しさはどうする。 何かあった時に吐き出す相手はおれじゃないのか。 電車の時間が迫る中いつまでも動かないおれに遥が笑って見せる。 「何かあったらちゃんと電話するから」 ほら、とポケットから出して見せた携帯はおれが遥に買ってやった物だ。 「無駄に使うなよ」 「わかってる」 「特にエロ動画とか見すぎるなよ」 「みっ、見ねーよ!」 「毎日ちゃんとラインしろよ」 「どんだけ過保護なんだよ」 「兄ちゃんはな!………心配なんだよ」 普通の家庭とはお世辞にも呼べない。滅多にいることのない父さんがいるだけで緊迫する空気に会話のない時間。 母さんとも距離をとっているのを知っている。 おれと一緒にいたからって、両親の代わりにはならない。参観日のお知らせを握り潰す遥の小さな背中は今でもおれの胸に焦げのように燻り残る。 これから遥は会話も笑顔もないこの家で暮らして行くのか。 「大丈夫」 明るい遥の声に遥を見る。 「兄ちゃんに顔向け出来なくなることはしない。約束する」 小指を出す遥。 指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます。 おれの小指に指を絡ませ遥が歌う。 「いつまでもくっついて一緒にいる訳にいかねーだろ。弟離れするいい機会だって」 無理に出す明るい声に背中を押された。 閉められたドアの向こうから行ってらっしゃいと泣きだしそうな声が聞こえた_____ 「かおるくん……」 思い出に浸り過ぎてぼーっとしていた。 結の声に振り向くと目を擦りながら結がソファのすぐ横に立っていた。 「目が覚めたの」 「うん、おトイレ…」 「ほら、おいで」 小さな手を引きトイレに連れて行く。 なぁ、遥。 おれは今、また昔のお前を育てているような気持ちだよ。 お前が産まれてなければ、きっと今のおれはいない。 感謝しているのは、いつだっておれだったんだ。

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