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幸せのお裾分け。

週末。何とか取れた近所のレストランの予約の前に二人のマンションに子供たちを連れて行く。 たまにしか会えないのに、結は遥が大好きだ。テレビ電話で話したいと華さんにせがむほど。 ドアが開き、顔を出した遥に結が飛び付いた。 「はーちゃぁん!」 「おー結、久しぶり」 「うん!」 脚に抱き着いた結を抱き上げる遥。 手を伸ばす航を笑顔で受け取る侑司くん。 華さんから荷物を受け取りそれを床に置くと、二人が練習したかのように笑顔を揃える。 「ごゆっくり」 幸せそうな二人を見ることに慣れても、それでもおれは今でも思うよ。 就職を決めたあの日に戻れるならおれは絶対に遥を連れて行く。 過保護すぎだと言われても。 遥の1番でなくなることに覚悟が出来ないまま離れた後悔がずっと胸の奥深くにゴロゴロと転がったままのような気がする。 「薫くん」 「ん?」 護りたい人が出来た。 かけがえのない大切な人。 その人が出逢った頃と変わらない笑顔でおれを見上げる。 「手、繋ごう?」 エレベーターの中、華さんが伺うように口にした。 いつもは子供たちとしか繋げないお互いの手。 「ん」 はにかむように差し出した手を握るこの人に惹かれたのは、ばあちゃんに似た言葉を話すから。 それを正直に打ち明けた時、この人はとびきりの笑顔で嬉しいと言ってくれた。 いつの間にかおれの1番も遥からこの人に変わった。 それが少し寂しくて、それ以上に誇らしい。 身を屈めキスをすると華さんがふふっと笑った。

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