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私の願いは。
ハロウィンが終わった街は一気に冬に変わる。
クリスマスの雰囲気に嫌でも気分が上がる。
寒いのは苦手だけど、この時期は大好きだ。
長く続いた誠一との暮らしから一人暮らしになってから半年。一人の生活にもだいぶ慣れた。
心配していた新妻はスパダリの手のひらで上手に転がされてるようだし。
ずっと一人でいると頑なだった響子さんも藤次郎さんと紘都くんと過ごす週末を楽しみにしているようだし。
泰生さんは相変わらず奥さんと娘さんラブだし。
言わずもがな、私の萌え、遥さんと侑司さんも仲良し具合に増々磨きがかかってるし。
あっちこっちでみんなが幸せでいい。
いいけど、私は?
私も愛されて愛したい。そんな人と出会いたい。
でもそんな出会いなんてそうそうない。
今年もロンリークリスマスだわ。
ため息が白く変わって冷えた空気の中に溶けていった。
「いらっしゃいませー。あ、真由さん」
事務所下のコンビニに立ち寄る。
限定のチョコレートが今日入荷するって愛ちゃんに聞いたから。
「チョコレート来てますよ」
「やった!」
愛ちゃんがいつもの癒やされる笑顔で売り場からチョコレートを持ってきてくれた。
大学生にしか見えない愛ちゃん、実は二人の子供がいるお母さんだと聞いた時は本当に驚いた。
若い時に子供を授かり、後に離婚して、今は実家でお世話になってるんですと聞いたのはつい最近。
そして遥さんに本気で恋をしていたことも。
でも告白する前に気付いてしまったんだって。
遥さんが誰を見ているのか。
気付いてからも諦め切れずに見つめる遥さんは、今もずっとその人に恋をしているのだとわかっているんです、と愛ちゃんは可愛い顔を曇らせた。
幸せな二人に水を差したくないんです、と愛ちゃんは笑う。
うん、わかるよ。
あの二人の間に入ろうなんて思えない。でもそれじゃ愛ちゃんがずっと苦しいままだよと言った私に、愛ちゃんはううんと首を振った。
好きな人の幸せな笑顔を見られるのは嬉しいですから、と可愛い顔で笑った。
なんていい子だ。
誰だ、可愛い子は性格が悪いなんて言ったのは。
「あ、ごめん、愛ちゃん。チョコレートもう一つ買う」
「え?そうなんですか」
売り場から慌てて同じ商品を取ってきてレジにいる愛ちゃんに渡す。
「あ、遥さんにですか?」
「うん」
「チョコレート、好きですもんね」
「うん」
「あ」
自動ドアが開き、入店のチャイムが鳴る。
ぐるぐるに巻かれたマフラーから埋もれた顔を出す遥さんと、遥さんを優しい笑みで見下ろす侑司さん。
「真由ちゃん、おはよう」
レジにいた私に気付き遥さんが挨拶をしてくれる。
「愛ちゃんもおはよう」
「おはようございます」
「今朝は寒いね」
言いながら外すマフラーを侑司さんが受け取る。それに小さくありがとうと言う遥さんの笑顔に思わず愛ちゃんを見ると、愛ちゃんはいつものように笑っていた。
切ないね。
好きになった人が必ず自分を好きになってくれればいいのに。
そしてそれは命尽きるまで続けばいいのに。
上手くいかない。
幸せな人がいる陰で苦しんだり涙したりする人がいるなんて。
世界中が幸せになればいい。
戦争も飢餓も差別も。
クリスマスの魔法で無くて良いものは全て無くなればいいのに。
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