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私の願いは。

一晩中考えた。 寝不足と頭痛で変なテンションなのが自分でもわかる。 会社に行って、ほんの一瞬自分の机で寝ていた気がする。 ドアのロック解除の音でよだれが垂れた。 「遥さん!!!」 「はいっ!」 ドアが開くと同時に遥さんに飛び付いた。 心底驚いた顔で仰け反る遥さんを侑司さんが背中から支える。 「愛ちゃんのこと好きですか」 「うん」 「だったら写真撮らせてください!」 「えっ」 遥さんの写真嫌いはもちろん知っている。 だけど、夕べ一晩使えない頭をどれほど撚っても遥さんしか浮かばなかった。 愛ちゃんはきっと遥さんを忘れたいとは思わない。辛くても幸せな遥さんを見ていたいと笑顔で話した愛ちゃんは、これからもずっと遥さんを見ていたかったはず。 そうして自然に他の人に目を向けられるようになって、他に好きな人が出来ても、毎日遥さんの笑顔を見ていたいと望んでいたはず。 だから、遥さんの笑顔を残して渡してあげたい。 愛ちゃんの好きだった人は、みんなを大切にし、大切にされる愛に溢れた人。 「な、なんで俺?しかも写真…」 曇る遥さんの表情に愛ちゃんの気持ちを話してしまいたくなるけど、それはしちゃいけない。 「愛ちゃんのこと好きなんですよね?」 「それはうん、そうだけど…」 「遥さんが昨日昼から外回り行ってる間に俺らも撮ったんですよ。みんな愛ちゃんにお世話になったから記念にって」 遥さんの肩を抱きながら侑司さんが言う。 遥さんから見えない位置の手が親指を立てた。 侑司さん、ありがとう。 侑司さんを見上げる遥さんの表情が柔らかく解けていく。 わかる。 わかるよ、愛ちゃん。 愛ちゃんがずっと見ていたいと望んだ遥さんはきっとこういう遥さんだよね。 愛する人の側で愛される遥さん。 ずっとずっと幸せでいてほしい。 簡単に諦めることが出来ない深い思いだからこそ、幸せでいてくれなきゃと思う。 だって、本当は自分が幸せにしたかったんだから。 愛ちゃん。 きっと、絶対、愛ちゃんの好きな遥さんを撮るよ。 だから、すぐじゃなくてもいい、愛ちゃんも幸せになるんだよ。

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