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私の願いは。

遥さんの写真を撮るのは本当に大変だった。 なんでも小さい頃から写真を撮られることがほとんどなく、気が付いたら苦手になっていた、という遥さんは、携帯でもデジカメでも向けた途端ロボットのように固まってしまう。 自然な笑顔を、と思うのにそれが全く叶わない。 遥さん一人ではダメだ。 早々にそう結論を出した私は侑司さんにご登場をお願いした。 「え、俺一緒でいいの?愛ちゃんにあげるんでしょ」 その侑司さんの言葉で、侑司さんは愛ちゃんの気持ちに気付いてたんだとわかった。 とりあえず、と侑司さんの背中を押し、遥さんと並んでもらう。 「喋っててもいいですよー」 私の声に、侑司さんが遥さんに何か耳打ちした。 すると、固かった遥さんの表情が途端に解ける。 柔らかく緩む頬と口元。 侑司さんの髪をくしゃりと撫でていつもの笑顔になった。 遥さんに気付かれないように連射した。 じゃれ合う兄弟犬のような二人を前に私は夢中で写真を撮りまくった。 撮った写真を大きさを変えてプリントアウトする。 それを部屋に持ち帰り、B4サイズほどのボードに張り付けていく。 愛ちゃん。 こうやって改めて見ると、この二人がお互いに思い合ってるって本当にわかるね。 真ん中に遥さんと侑司さんの笑顔の写真を。 回りには事務所のみんなを一人一人、遥さんと侑司さんを取り囲むように。 そして長年毎日のように働いてきたコンビニを、コンビニの中から見てきた風景も。 そして一緒に働いてきた店長さんやスタッフさん達。 愛ちゃんより先に辞めていった、愛ちゃんと仲の良かったスタッフさんも。 店長にお願いしたら快く探してくれ、辞めて何年も経つのに、その人達も気持ちの良い笑顔を撮らせてくれた。 愛ちゃんもたくさんの人達に愛されてきたんだね。 だから、きっと幸せになれる。今よりももっともっと。 愛ちゃん、長い間、毎日素敵な笑顔をありがとう。 愛ちゃんの笑顔を見ると、一日が始まる、頑張るぞって気持ちになれたよ、本当だよ。 愛ちゃんに支えられた人達がきっと他にもいるはず。 長い間、本当にお疲れ様でした。

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