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Merry Xmas 真由Ver.

「はぁ〜」 空に吐く息が白い。 鼻の奥がつんと痛い。 せっかくのお休みだというのに、ぎっくりになったという誠一の代わりに休日出勤。 初めて招かれた二人の愛の巣は広さにも驚いたけど、何よりキングサイズのベッドの真ん中じゃなく、端っこに縮こまるようにしていた誠一と、やっぱり一緒に寝ているという事実に驚いた。 いつもスーツにびしっと後ろに髪を撫でつけた姿ではなく、グレーのニットに黒のスエット、洗い立てのような髪で眉間の皺もどこへ消えたのか、柔らかな表情で誠一の側にいる治さんと、 信頼からかどこか甘えるような誠一。 二人の雰囲気に照れまくった私は早々に本家を後にした。 遥さんと侑司さんもそうだけど、異性の恋人同士より同性の恋人同士の方がお互いをかけがえのない存在と大切に思い合っているように思うのは気のせいなのかな。 法律の改正もあったりで、同性同士の恋愛も以前よりは認められてきたとは言え、まだまだ根深い問題はたくさん残っていると思う。 思い合うことは異性同士と何も変わらないのに。 生産性がない。 この言葉が私は何より嫌いだ。 それを言うなら、結婚適齢期に一人でいる私が正にそれだ。 どうでもいい恋愛なんてしたくないし、仕事や私生活をなげうつような恋愛もしたくない。 ほどほどに優しくて、ほどほどにお金があって、ほどほどにお互いを尊重し合い、ほどほどに思い合える。 それでいいのになぁ…… 「あれ、真由ちゃん?」 俯いたままいつもの癖でコンビニに入ってしまう。 レジにいた店長がニコリと笑っておはようと言った。 「おはようございます」 「休日出勤?」 「はい」 カフェラテ?と聞きながらレジを打とうとした店長の後ろ、奥の事務所からすらりと細い影がぬっと現れた。 「あ、奥平くん。初めてだよね」 「初めまして」 店長の紹介に、見上げる彼が低い声を出しながらペコリと頭を下げた。 「この若さで優秀なSVなんだよー」 制服ではなく、スーツを着ている訳だ。 やたら見られている。 奥平さんの視線から逃げるようにカフェラテだけを買ってそそくさとコンビニを出た。 「ねぇ」 降りてくるエレベーターを焦れる気持ちで待っていると低い声に呼ばれた。 「何ですか」 「俺ね、結構前からあんたのこと知ってんの」 「…は?」 近づいてくる足も大きい。 「店長がさ、べた褒めしてたんだよ。可愛くて優しくてあんな良い子は早々いないって」 「はぁ…それで?」 「で、興味が出た。これ」 名刺が出され、咄嗟に癖で両手で受け取ろうとした私の手から奥平さんがカフェラテのカップを持ってくれた。 奥平 依《おくひら より》 「29歳。喫煙者。独身。彼女なし、離婚歴なし。割と広めのワンルーム住まい。車あり。料理はほどほど。給料も貯金もほどほど。趣味仕事と映画。お買い得物件だと思わない?」 口が開いた。 ぽかーん、とは正に今の私だ。 「Xmasだし、お試しに付き合ってみない?」 意地悪そうに笑う彼に、何故かこくんと頷いていた。 Xmasの夜、初めてのデートの帰り。 繋いだ手にドキドキして。 そのドキドキが治まらないうちに誠一に電話をかけた。 「私の部屋の合鍵、あれ返して」 何か叫んでいる誠一を無視して電話を切った。 「じゃ、先に渡しとくわ」 初めてのXmasプレゼントは奥平さんの部屋の合鍵。 と、触れるだけの軽いキス。 「奥平さん」 「ん?」 「Merry Xmas」 首が痛くなるほど見上げる彼の顔。 これが当たり前になるようにと願う。 Xmasがますます好きになれそうな予感に頬が緩む。 来年のXmasもきっと彼と……

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