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慣れないMerry Xmas
いつもは行かないような、良い雰囲気の店で夕飯を食べた。
きっと目ん玉が飛び出るほどの支払いを、俺の知らない間に済ませるあたりはさすがにスパダリ。
周りがどれほどカップルだらけでも気にならないように個室を抑えるところもさすがだ。
さすがすぎて、俺の出来なさぶりが露呈されてると感じるのは気のせいか……
今年のXmasは平日で、明日も平日。
年末年始の休みを確保するために連日時計がてっぺんを回ってからの帰宅、疲れは貯まる一方なはずなのに、スパダリは俺の言った旨いの一言に眉間の皺を伸ばしやがる。
モジモジするほど寒い外でふかす煙草の煙。
吐く息の白さなのか、煙草の煙なのかすらわからない。
煙に目を細めがじりとフィルターを噛むのを見て、煙草を取り上げて唇を塞いだ。
「フィルター噛むなって言ったろ」
「……癖なんだよ」
「帰ろうぜ。……寒い」
「飲んでないよな?」
「今日はしねぇ。明日も仕事で午前様だろうが」
くくっと笑った低い声が何を意味するかなんてもうわかってる。
それでも。
俺だって雄だ。大人しく押し倒されてなんかやるものか。
風呂場に鍵をつけた最初のヤツに勲章をやりたい。
風呂はのんびりする場所で喘ぐ場所ではない。
出た俺と入れ替わりに咥え煙草のまま風呂場に向かう不機嫌な背中に敢えて声をかける。
「風呂で吸うなよ」
返事をしなかったスパダリは相変わらず僅か数分で、それでもさっぱりした顔で眼鏡をかけてリビングに戻ってきた。
「座れ」
ソファに座る俺の脚の間に良い子で腰を降ろしたスパダリの髪をドライヤーで乾かす。
「お前、俺の髪触るの好きだよな」
「まあな」
乾き具合を確かめるように頭皮に指を添わせる。
他のヤツが触れないとこに触るのが好きだ。
俺にしか見せない顔、許さない場所。
俺が特別だと言葉で告げられるのも悪くないがふと触れる手を受け入れてくれる擽ったさが堪らない。
「満足したか?」
いつの間に咥えていた煙草をふかしながら治が笑う。
「まさか」
膝を叩く。
「なんだ?」
驚いた顔のスパダリの頬に噛み付くようにキスをしてやり、膝枕だよと囁いた。
照れたぶすくれた顔で真上に煙を吐き出すスパダリ。を、前髪を撫でながら見下ろす俺。
「灰が落ちるぞ」
「あぁ…」
口から煙草を取り上げ灰皿に押し付ける。
寂しくなったろう唇を塞いでやると途端に深いキスに変わった。
「……ヤんないからな」
「わかってるって」
たぶん愛を囁き繋がり合う恋人たちがたくさんいる。
そんな夜だ。
「…………………………………ヤルか」
くはっと治が噴き出した。
「誠一」
「…んだよ」
「首輪代わりにつけとけ」
「は?」
投げて寄越された平たい箱を開けるとシンプルな太めの鎖と小さなリングがついたネックレスが出てきた。
治がそれを取り上げ俺につける。
「似合うな」
「俺、何も用意してねーぞ……」
「気にするな」
首の後ろからネックレスを伝った指が先端に届きくんと首を引っ張る。
「身体で貰う」
痒いことを言うなと悪態つく言葉はスパダリの唇で塞がれた。
別にめでたくもなんともないが、聖なる夜だ。
いつもと何も変わらない手と唇、愛を告げる声も甘い。
少しだけ煙草の匂いのする指を咥えてしゃぶってやった。
俺だけのスパダリに滅法弱い。
今夜だけは素直に喘いでやるよ。
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