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おれの。

「おさむん、邪魔」 「おさむんて呼ぶな、って言ったろ」 おれがかけてる掃除機をちらっと見た治は、ソファから投げ出した長い脚を避けもせずに煙草をふかす。 なまじ金があるのはいただけない。 週に一度治は家事代行を頼む。 一緒に暮らし始めてどれだけ止めろと言っても首を縦に振らない。 長い独身生活、ましてや子供がいるとなると掃除洗濯料理はそれなりに身につくものだ。 家事はおれがやる。 いくら言っても治はうんと言わない。 休日にこれみよがしに家事をやるおれを治は見て見ぬ振りを貫くのだ。 「家事は料理以外はやらなくていい。家事代行はやめないからな」 しーんとした部屋に空気清浄機が唸る音がする。 料理つったって、それも毎日じゃない。 接待の多い治、1ヶ月で数えるほどしか家で食事をしないくせに。 「何が気にいらねーの?おれがやるっつってんだろ」 「………………」 出たよ、だんまり。 着地点のない言い合いになりそうで寝室に閉じ篭った。 誰かさんに似たでかいぬいぐるみ、あいつの代わりにスリーパーホールドをキめていると寝室のドアが開き、眉間の皺も凛々しい旦那がやってくる。 「んだよ、ごめんなさいしに来たのか」 「家事するんならその時間、俺に使え」 「……………は?」 思いもよらなかった治の言葉に治を見上げたまま口がぱかんと開いた。 「20年だぞ」 「何?」 「お前に片思いしてた年数」 「かっ」 片思いって… いい年したおっさんが言う言葉じゃねーだろ! 治はいつもの通りの涼しい顔をしているが、言われたおれが頬が熱く感じるほど照れる。 「外では互いに仕事がある。家ではせめて側にいろ」 「………いるだろーが」 ヤバイ。 こんなに照れたのはいつぶりだか思い出せないほどの照れが襲う。 「なんでそんなに家事代行を嫌がるんだ」 治が隣に腰を下ろす。 固いマットレス、僅かな振動が伝わる。 照れすぎておかしなことを口走りそうだ。 「おれらの空間に知らないヤツが入ってんのがやなんだよ、特に寝室」 「まあそうか。ヤッてる場所だもんな」 「そういうのは言わなくていいんだよ!」 でかい手がおれの前髪を掻き上げる。 こいつの代わりにしていたぬいぐるみから腕が外れた。 噛み付くようにされたキスが深くなるのはすぐだった。 「ん…、こりゃ」 「ふっ」 「わりゃうにゃ」 舌を絡められて思うように喋れないおれを治が笑う。 「寝室以外なら家事代行続けていいか?」 「………側にいればいんだろ」 「ああ」 うんと頷くおれの首筋を撫で治が柔らかい笑みを浮かべる。 外ではコワモテ、仕事のできるスパダリ旦那。 家では、おれの前ではこんな顔をするんだ。 それを誰にも見せたくない。 そう言ったらお前も照れるのか? 比べることなんかできないが、おれだってくだらない嫉妬や独占欲はあるんだ。 香水くさい匂いをさせて帰ってくる深夜。素っ裸に剥いて洗ってやりたい。 いつもの煙草とおれの匂いだけさせとけばいいんだ。 太い首に手を回して引き寄せ、治の首に噛み付く。 にちっと肉の感触を確かめてから、くっきりとついた歯型を舐めてやる。 「なんだ?マーキングか?」 揶揄うような声に場所をずらして強く吸い付いてやる。 「そうだよ。……おれんだろ」 「ああ」 嬉しそうな口調におれの口元も緩む。 嬉しいんならもっとつけてやる。 これはおれの男。 その印を全身に。

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