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喧嘩のあとは。

喧嘩をした。 きっかけはいつもの些細な、本当に些細なことと俺は思っていた。 『実家に帰る』 同窓会に出ていた夜、届いたLINEを開くとこう書いてあった。 ここが二次会の居酒屋だということも頭からすっぽ抜け声が出た。 「えええっ!!」 「うお、なんだよ、なんかあったのか」 いきなりの大声に、隣に座っていた沢田が仰け反るほど驚く。 「い、いや、なんでもない……」 ど、どどどどうしよう…… 遥さんが実家に帰るなんてこれまで一度もなかった。 そんなに怒らせてしまっていたのか。 「なんでもないこたないだろ。なんだよ、言ってみろって」 沢田が枝豆の房を咥えてにかっと笑う。 「言わないなら、楠木に連絡先流すぞ」 「個人情報保護法」 「電話帳を開いたままの携帯をうっかり楠木の前に置き忘れるってこともなくないからなー」 沢田が少し離れた席に座る髪の長い彼女をちらっと見る。 楠木佑実。 高校の時に付き合っていた元カノ。 1次会でしつこく連絡先を聞かれ、沢田の横に逃げるように来た俺を沢田が笑う。 「連絡先くらい交換してやりゃいーじゃん」 「俺、もう決まった相手がいるから」 「マジでか!結婚は?」 だよな。 そうなるよな。 だから同窓会に出席するのは避けてたんだ。 遥さんとの喧嘩も出席するしないで言い合いになったんだっけ。 遥さんとのことを隠したくない。 だけど、世間が同性愛に寛容な人ばかりとは限らない。それくらいは俺だって理解してる。 でも、聞かれると話したくなる。 誤魔化したりしたくない。 俺のこれから先の人生、共に生きるのはこんな人だと自慢したい気持ちですらいるのに。 「結婚は……まぁ、そのうち」 「お前そんなこと言ってると捨てられるぞ!付き合って何年だよ」 「………7年」 俺の答えに沢田がぎょっと目を剥く。 「相手、何歳だよ」 「三つ上だけど…」 沢田が頭を抱えるようにしながら深いため息を吐いた。 「お前、自分の人生設計どうなってんの…」 「人生設計て」 「いや、例えばさ、貯金これくらいで結婚、子供。それからマイホームや老後のこともあんだろーが」 「あぁ…」 老後のことは考えて貯金はしてるし、遥さんが嫌うのもあって贅沢らしい贅沢はそれぞれの誕生日くらいだし、マイホームはもうあるし(遥さんのだけど)。 「人生設計はそれなりに考えてるよ」 「彼女いい歳じゃんか。子供欲しいとか言わねーの?」 「うん…」 上手くかわせる自信がなかった。 だからずっとなんやかんやと理由をつけて同窓会を避けてきた。 真実を言えばいいってことはない。 嘘をつくことも必要だ。それが大切な人とその人との生活を守るためなら尚更だ。 でも…つかなくていい嘘なら、出来るなら遥さんとのことに嘘をついたり、誤魔化したりはしたくない。 あの人もあの人との全ても、俺の自慢で誇りでしかないから。

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