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喧嘩のあとは。

インターフォンを押す。 静かな住宅街にその音がこだまするように響いた気がした。 『はい?』 母さんが出た。 「俺。遥さんいるだろ」 『はいはい、ちょっと待ってね』 笑いを含んだ声でそう言われ、通話が切られる。 心配そうな顔をした薫さんに何も告げず車を借り、念の為にと覗いた部屋にはやっぱり遥さんはいなかった。 遥さんの実家じゃないとするともうここしかない。 玄関のドアがゆっくりと開けられる。 「やっぱり来たわね」 母さんのホッとしたような顔で遥さんがここにいると確信出来、俺もホッと息をついた。 「遥さんは?」 「それがね〜」 早足にリビングへ向かいながら聞くも、はっきりしない母さんの物言いに首を傾げながらリビングのドアを開けた。 しっ!と人差し指を口に当てた父さん。 奥に進むと、ソファで眠る遥さんがいた。 「遊びに来ましたって言って、お土産の日本酒をお父さんと一緒にかぱかぱ飲んで」 「そしたらこてんと寝ちゃったんだよな〜」 小声で話し、ね、と顔を見合わせて笑う両親を見て、ようやく張り詰めていた気が抜けた。 「……何かあったんだろ?お前には連絡しないでくれって遥さんが言ってた」 「え…」 「明日お休みだし、侑司は同窓会だから気兼ねなく時間を忘れて楽しんできてほしいからって」 泊まって行きなさい。 車を返すのはいつでもいい、と薫さんからの言葉を思い出し、両親の申し出に素直に頷いた。 リビングのテーブルを寄せ、ソファの横に二組の布団を敷く。 遥さんを起こさないようにソファから布団に移し、ジーンズのベルトとボタンを外した。 小さなうめき声を上げた遥さんはころんと寝返りを打ち、また安らかな規則正しい寝息を繰り返す。 目にかかる前髪を指で除けると鼻の窪みにほんの少しの水の玉。 「遥さん、何か言ってた?」 キッチンのダイニングテーブルに座り、番茶を啜る両親の動きが同時に止まった。 そしてふふっと笑い合う。 「もう惚気られたわね〜」 「だな〜」 ………惚気? 「酔ってからよ?それまでは悪口じゃないけど」 「侑司は自分を甘やかしすぎだとか、侑司のことより自分を優先してばっかりだとか」 「そうそう。拗ねたみたいに言ってたのよね〜」 和やかに笑い合う両親に今度は俺が止まった。 これはかなり恥ずかしい………

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