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高価な虫除けその後。

「誠一さん、指輪」 「あ、あぁ…」 朝から一社回り、のらりと出社した俺のところにきた遥が目ざとく左手の指輪に気づいた。 目の端に映る娘がニヤニヤしている。 「まぁ…………そういうことだ」 「おめでとうございます!」 「え、結婚したんですか!」 喜ぶ遥とは正反対のしかめっ面で侑司が詰め寄る。 「何だよ、俺にそういう相手がいたらおかしいってか」 「いや、どんな変態かと」 確かに変態だな、あいつは。 だが、侑司に認める訳にはいかない。 「変態じゃねぇよ」 「俺らの知ってる人ですか?」 「いや……それはまぁいいじゃん?」 「いい歳して恥ずかしがらないで下さいよ」 呆れた顔で言う侑司から顔を背けた先に真由がいて、慌てて逆を向く。 「この人とお付き合いしてますってお前、こいつとヤッてますってのとおんなじじゃねーか!」 「俺は誰にでも遥さんと付き合ってますって言えますよ」 「お前は変態だからだ」 赤い耳をした遥が自分の席に戻っても侑司は戻らない。 「侑司さん、そのくらいで許して上げてください」 さすが我が娘。 思わず笑顔になって見上げた俺をちらっと見て、真由が侑司に向き直る。 「誠一はどうこうとか言えないほど、紹介できないほどベタ惚れなんです。甘えて甘えてその人の前ではにゃんこちゃんみたいになっちゃうくらい」 「真由っ、おまっ!」 「このおっさんが?」 侑司の俺を見る目が痛い……… 「ね?そうだよね?」 反論は許さない。 その圧をひしひしと感じる。 「ま、まぁ………うん………」 会社での俺の立場よ…… この高価な虫除け、虫除けどころか俺の存在価値下げるだけじゃねーのか。 無意味に光る指輪を睨む俺を真由が不敵に笑う。 指輪を貰ってから嫌がらせにも似た嫌味やらを言われ続けることにため息が出そうになった。 先に指輪を貰った俺を妬む前に、可愛くお強請りしてみろよ。 そう言った俺は「言って貰うんじゃ意味ないの!」と噛み付かれんばかりに反論された。 そんなもんかね… 焦らなくてもそのうちお前は貰えるよ。 なんてったって、俺の自慢の世界一の娘だ。 椅子をくるりと回して腕を広げる。 「ん」 「は?バカじゃないの!?」 赤い顔で自分の席に戻る真由の背中に投げキスをする。 仕方ない、帰ってダーリンにハグしてもらうか。 お前の代わりにもならないけどな。

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