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後悔しない恋。

「たぶん、好きです」 これほどまでにみっともない告白をしたのは産まれて初めてだった。 間抜けな告白を聞いた目の前の人は、いつものようにふはっと笑った。 笑って、笑いを噛み殺しながらごめんと言った。 「答えはわかってるよな?わかってるのに、伝えてくれてありがとう」 そう言われて、確かに。と思った。 この人にはもうパートナーがいる。 二人の雰囲気や距離感からもしかして、と思っていたが、まさか本当にそうだとは。 叶わないことはわかっているのに伝えたくなったのはきっとあの時からだ。 叶わない思いほど残るのは何故だろう。 ずっと胸の奥に燻り続ける感情を持て余し、望めば望むほど打ちのめされるのに。 侑司さんを自分のパートナーだと自慢のように口にしたこの人。 同性同士なのに、後ろめたさや背徳感はまるで感じられなかった。 自分の性癖をひた隠しに隠し、異性と恋愛ができる風に生きてきた俺からしてみれば目から鱗だった。 何故? 何故そんな風に言える? 俺は………親や親しい友人にすら一度も打ち明けたことはないのに。 そしてそれはきっとこれから先も伝える気はない。 世間の、ごく当たり前の道から外れた人間だと思われたくない。 この人を好きになれば、好きになってもらえれば変われるのか。 好きな物を、好きな人を好きだと言える自分に変われるのか。

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