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後悔しない恋。
「っかしーな………」
社長の諏訪から貰ったメールを開き、何度確認してもこのビルで合ってる。
合ってるのに、ビルの階数のどこにも『スマイル派遣会社』の名前がない。
来訪時間はとっくにすぎてる。
諏訪の携帯に連絡しても出ない。
これは……貰った内定が取り消しになっても仕方ない。
そう腹を括った時、ガラガラと台車を押しながら歩いてくる人が見えた。
俺と目が合うと、その人がにこやかに微笑みながら会釈をしたのに習い、俺も会釈を返した。
諏訪の携帯を何度も呼び出しながらただ時間が過ぎていく。
ため息をつき、諦め帰ろうとした時、ビルの中から聞き覚えのある台車の音がした。
「あれ、まだいたの」
さっきは着ていたジャケットを台車の荷台に置き、白地に薄いブルーのストライプのワイシャツ姿になった、会釈をしてくれた男性が驚きながら声を発した。
「ビルの中に用事があるんじゃないの?」
「そうなんですけど、ここに名前が載ってなくて…スマイル派遣会社ってご存知ないですか」
「えっ」
「えっ!?」
顎に手を当て、その人が俺を上から下までじっくりと眺める。
「あの…?」
「もしかして今日訪ねてくる人って君?」
「はい?」
「諏訪っておっさんにナンパされた?」
「はい!?」
驚き続ける俺を見たその人はひと呼吸置いて噴き出すように笑った。
息をひとつ吐くように、ふはっと小さな笑い息を漏らして。
低くも高くもない、落ち着いた柔らかい話し方に声。
190を少し越える長身の俺を見上げる大きな目。
明るすぎない茶色い髪、癖のない髪は細く見える。
清潔感のあるワイシャツに紺のニットネクタイがとてもよく似合っている。
人に好かれる人って、きっとこういう人だ。
素直にそう思った。
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