202 / 215

後悔しない恋。

お茶に炭酸飲料にカフェオレ。 人数分の飲み物を買い込み、既に懐かしく感じる乗り慣れてしまったエレベーターのボタンを押した。 古いビルに古いエレベーター。 乗る時はいつも止まるんじゃないかとハラハラしていたエレベーターの動力音が、遥さんと乗り合わせる時だけ気にならなかった。 5階につく。 エレベーターのドアが開いた瞬間猫のような鳴き声が微かに聞こえた。 まさか。 途端に背中を嫌な汗が伝う。 また微かに甘えるような声が漏れ聞こえた。 「ゆーじ……」 事務所のドアを目の前に足が竦む。 膝から力が抜けた。 ペットボトルが入ったレジ袋が落ち、音を立てて倒れる。 「ゆーじ…、ゆーじ……」 あなたは……こんな声で好きな人を求め、好きな人の名を呼ぶんですね。 俺は……………………こんなに求められたことも、呼ばれたこともない。 いつも見つめる先には侑司さんがいて、侑司さんと話す時はいつもよりさらに柔らかい声になった。 侑司さんの遥さんを見つめる目も、そっと背中に触れる手も、拒まれることがないことを知っていた。 愛し愛される二人。 ようやくわかった。 俺もあんな風に思われ愛されてみたかった。 遥さんなら、俺の望む愛をくれそうな気がした。 思うだけじゃなく、一方的に愛し求めるだけじゃなく、好きな相手にも同じように愛し求めてほしい。 本当は、それをずっと望んでいた__________

ともだちにシェアしよう!