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後悔しない恋。
ドアに背中を預け天井を仰ぐ。
ため息と共に一筋雫が流れる。
微かに漏れ聞こえ続ける甘い声が呼吸を苦しくさせる。
「まさかコレで自覚するとはなぁ…」
今更本気ですと言ったところで貰う返事はわかりきっている。
あの人が求めているのは侑司さんだけ。
それをまざまざと見せ付けられても、さらに苦しいほどに募る思い。
俺、マゾだったのかも。
ふと漏れた笑い。歪んで開いた口にしょっぱい雫が滑り込んだ。
きっぱりと振られよう、もう一度。
尻尾を巻いて逃げ出すなんてらしくない。
あの二人を祝福できるくらいに………なりたくないな、今はまだ。
後頭部をドアにつけ、再度吹き抜けの天井を仰ぐ。
晴れ晴れとした空が小さな天窓から見える。
「くそったれ……」
転がったレジ袋から炭酸飲料を取り出す。
真由さんが言った「侑司さんの好きなのはこれ」。
愛され幸せなヤツはそこらへんの泥水でも飲んでりゃいい。
小気味良い音を立て蓋を捻り煽る。
ほとんど飲んだ記憶のないその炭酸飲料は、割と俺好みだった………
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