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改めて誓います。

太い指で不器用そうに触るスマホ。 パートナーシップ制度とは。 それを調べた父さんは眉間に皺を寄せたままスマホを酒と猪口とおつまみが並ぶテーブルに置いた。 「侑司とお前はパートナーだと証明するって用紙が貰える、だけか」 「そう。それにそんな必死になる侑司がよくわかんなくて…」 「お前のその大雑把なところが侑司に不安を与えているんじゃないのか」 「けど、もう七年も一緒にいるのに」 「だから何だ」 食い気味に太く重い声に言われた。 「七年が何だ」 「何だって……」 「普通の結婚しようと一度は思ったお前なら結婚の手続きがどれほど大変かはわかるだろ」 「あぁ…」 「特に女性側は大変だ。免許証から保険証、会社への変更手続きのお願いから住所変更、生命保険の受取人の変更。引っ越しにその片付け。 結婚式を挙げるとなるとその数倍は大変になる」 うん。 大きく頷く。 「そういう大変で面倒な手続きを幾つも幾つもしながら、何度も話し合い、お互いをより深く知り、一生を共にし、同じ墓に入る覚悟と責任を少しずつ培い持っていくんだ」 重い重い声がじわりと胸に染みてくる。 この人は、父さんの声は、こんなに響くものだったのかとこれまで知らずにいたことが勿体無く思えた。 「結婚は割に簡単に出来るが、離婚した知り合いは結婚の数倍離婚の方が大変だと言っていたぞ」 「……そうなの?」 「子供がいれば尚更な」 「縁があって一緒になっても、離れることも少なくない。例え法で守られているとしてもな。 法で守られていないお前たちが別れないと誰が証明してくれる」 証明。 それができるのは…お互いの思いだと思っていた。 それが最良であり、最善だと。 でも、証明が欲しいと、それが侑司の支えになるのならとも思った。 揺るがない思い。侑司のそれを疑ったことがないのは普段からのあいつの言動か…… 「わかるけどさ…放ったらかしは腹立つ」 「お前は子供か!!」 窓がビリビリするほどの怒声。 ちっとも怖くない。 俺が怖いのは、ただひとつ恐れるのは……… ピンポン。 チャイムが一つ鳴る。 ピンポンピンポンピンポンピピピピンポン。 連打されるインターフォンに呆気に取られたあと母さんと顔を見合せ噴き出した。 鼻息も荒く、どすどすと足音を立て、父さんが玄関に向かった。

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