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「知りたい」っていうのは「支配したい」と同等の欲求なんだよ。 「君は志摩を支配したいんだ?」 ……どっちかっつぅと俺の方が支配されかけてるんじゃねーのか。 念入りに磨かれたカウンターに両肘を突かせ、左右の五指の先を軽く触れ合わせている阿久刀川の隣に岬は腰かけた。 「志摩センセェ、前に俺に言ったんだ。自分に家族はいねぇって。でも、昨日の女の人、志摩センセェの妹なんだろ? しかも双子の」 「そうだよ」 「阿久刀川サン、妹サンとも親しそうだったよな」 「まぁね。彼女も同じ高校にいたから」 ……この人、絶対ドミナントだな。 ……この自信に満ち溢れてるかんじ、百合ちゃん、百合ちゃんの店のスタッフと似てる。 「前から思ってたんだけど、志摩センセェってドミナントっぽくねぇし、やっぱり妹サンの方も同じ印象受けたんだよな。お父さんお母さんもそーなのか?」 「志摩は隔世遺伝だからね」 岬の吊り目が矢庭に見開かれた。 隔世遺伝。 初耳だった。 もちろん言葉の意味は知っている、志摩からそんな話を聞いたことがなかったというだけで……。 ……なんで教えてくれねぇんだよ、あの死んだ魚の目キョーシ。 「志摩のご両親と双子の妹、彼らは自分自身が淫魔筋であることにも気づいていない。生まれ持った性別で「淫魔の性」や「性の混沌」に悩まされることもなく、自分なりの人間生活を過ごしている」 ーー志摩だけが優性(ドミナント)の淫魔として顕著に目覚めてしまった。 幼い頃は問題なく溶け込んでいたが、成長し、思春期に入ってから「とめどなき淫欲」に振り回されるようになると、家族の中で一人だけ浮いた存在になった。 抑えきれない性的衝動。 早熟な相手、複数、どれだけ奔放的に振る舞おうとも解放しきれずに持て余し、特に高校時代は殺気にも似た危うい色気(フェロモン)を放つようになった。 「志摩だけ毛色が違う。親戚の集まる法事ではよく言われたそうだよ」 「……志摩センセェに危うい色気……」 ……高校生だった頃のセンセェ、見てみてぇ。 ……つぅか早熟な相手とか、複数とか、爛れまくりじゃねぇかッ。 「それは親戚のみならず家族間でも思われていたことでね」 「お父さんお母さんまで? 息子の志摩センセェのこと、毛色が違うなんて、そんな風に思ってたのかよ?」 「志摩はなるべく抑えようとしていたんだけど。うまくいかなくて、その分ピリピリするようになって。教室でも家でも口数まで減っていった。原因を知る由もない、淫魔の存在すら知らないご両親との間に溝ができ始めた」 『俺もこの血のおかげでお前の年の頃は、な、色んなことがあった。 今でこそコントロールできるようになった。 でも昔はそうじゃなかった』 阿久刀川の話を聞いていた岬の脳裏に志摩との会話が蘇った。 『志摩センセェも……周りにナイショにしてたのかよ……?』 『ナイショ、か。随分かわいい言い方するのな』 俺だって、こんな体、嫌いだった。 誰にも知られたくなかった。 死んだ方がマシなくらいの苦痛の夜がやっと明けたかと思えば、勝手に授けられていた第二次性徴期の証。 呪いにすら思えた。 でも。 『世界で一番いとおしい子。貴方ならどれだけ深い悪夢だって飼い慣らせるはず』 百合ちゃんがいてくれたから深い悪夢にどこまでも溺れないで済んだ。 でも。 志摩センセェは……。 「妹サンは? 双子で、同じ学校で、その頃は仲よかったんじゃねぇの?」 カウンターの内側で寡黙にグラスを拭くスタッフを眺めつつ、阿久刀川は「二人は二卵性双生児なんだ」と薄明るい地階の店内によく馴染む滑らかな声色で告げた。 「顔立ちも性格も似ていない。二人が会話をしているところもあんまり記憶にない」 「でも、だからって。志摩センセェはなんであんな対応したんだよ? よっぽどのことでもなきゃあ、双子の妹にあそこまで冷たくしねぇだろ?」 記憶に新しい昨日の出来事を思い出し、居ても立ってもいられなくなった岬は阿久刀川の腕をつい掴んだ。 生粋のドミナントである美丈夫の淫魔は微笑んだ。 家族の繋がりを大切にしているインサバスの白アッシュ頭をイイコイイコするように撫でた。 「君は優しいこだね、岬くん」 「おい、勝手に人の頭撫でるんじゃねぇ」 「志摩には大人しく撫でられるのかな」 「ッ……うるせぇ、んなことどーでもいーんだよ、話の続きしろよッ」 「ここから先は有料だよ」 唐突な料金制の提示に岬は耳を疑った。 「い……いくらだよ……今、あんま持ってねぇ、つぅか電子マネーしかねぇ」 「君、インサバスなんだってね」 ……あの死んだ魚の目キョーシが、自分の話は出し惜しみするクセに俺のことはベラベラ喋りやがって。 「そんなにも贅沢で美味な体、たった一人相手に満足させるなんてもったいない」

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