32 / 112

7-5

急に食事を始めた担任に、呆気にとられていた岬は、みるみる憤怒の表情へ。 「おッ……おまッ……おま……ッ」 「岬、人の食事中に放送禁止用語は控えた方がいい」 「あほかッ、違ぇよッ、お前なぁッ、逆だろーがッ、人のオナ中に呑気にバーガー食ってんじゃねぇよ!!」 喚きはするが、命令を撥ねつけることはできずに泣く泣く一時停止状態を保っている岬の目の前で。 志摩はチーズバーガーを平然と食べ続けた。 ただただ信じられずに凝視していたヤンキー淫魔だが。 こんな状況であるせいか。 えもいわれぬ妙な気持ちが頭を擡げてきた。 ……一緒に飯食ったことは何回もあるけど、こんなにじっと見るの、初めてかもしんねぇ。 ……志摩センセェがバーガー食ってんの、なんかえろい。 ……俺もあんな風にかぶりつかれたい……。 「なに」 指についたソースを一舐めする際に声をかけられると下半身がゾクゾクした。 「お前もほしいの」 背もたれから身を起こした志摩に食べかけのチーズバーガーを口元へ差し出されると、その理解不能な行為にさえ昂ぶってしまった。 「ん……」 両手が使用できないので動物みたいに(かじ)りついた。 正に餌付けだった。 「ン……ん……」 「ヤラシイ食べ方」 「ぅ……」 「おいしい?」 「おいし……もっと……」 「俺の分がなくなる」 絶頂を寸止めされた状態で陶然と眉根を寄せ、鼻孔で切なげに息をし、岬は悩ましげにチーズバーガーに齧りつく。 志摩は笑みを深めた。 鳥のヒナのように欲しがる唇に最後の一口分も与えてやった。 「性欲と食欲の共演ってとこか。ああ、汚れてるな、ここ」 怒ったり、噛みついてきたり、そうかと思えば急に大人しくなって未熟な色香を放出したり。 今はおざなりに咀嚼・嚥下している岬の頬についていたソースを志摩は器用に舐め取った。 「う」 自慰を開始してから初めての接触に岬の褐色肌は総毛立った。 「し、志摩センセェ、指示、指示くれよ、早く」 今は至近距離にあるレンズ越しの双眸を食い入るように見つめて縋った。 先延ばしにされた分、手に入れたくて堪らなくなった絶頂を恥ずかしげもなく強請った。 また元の位置に戻って背もたれに頬杖を突いた志摩は、今にも耳と尻尾を出しそうな様子で自分を精一杯見つめてくる岬に許可を与える。 「いいよ。いってごらん」 許可が下りた数十秒後、岬は……吐精に至った。 ぐっと首を竦め、ちょっと険しげに眉間に縦皺を寄せ、全身を微痙攣させた後に勢いよくスペルマを弾いた。 「はぁ……ッ、ッ……!」 片頬に自身の欠片をくっつけて色っぽく嘆息した岬に志摩は不意に身を寄せた。 「また汚れた」 器用な舌先で生徒の欠片を綺麗に舐め取った。 たった一瞬の刺激に達したばかりの岬の肌身はより一層滾る。 「よくできました」 白アッシュの頭をよしよし撫でられると、たったそれだけで胸がぎゅっと締めつけられた。 「は、ぁっ……センセ、ェ……頭、もっとーー」 「次は俺の番か」 目蓋が重たくなりかけていたはずの吊り目がカッと見開かれた。 すぐ真正面で、志摩の長い指が自身のスラックスのホックに届いて外そうとする、待ちに待った魅惑の光景に岬の全神経がもっていかれた。 ……や、やっとセンセェのオナニーが見れ……ッ。 ……つぅかセンセェのモン見るのも初めて……ッ。 「なーんてな」 ピタリと動きを止めた志摩に岬は拍子抜けする。 「半熟淫魔に俺の自慰シーンを見せるのはまだ早い」 「はぁ!?」 「代わりにお前の体で再現してやるから」 「ち、違うッ、そんなん断じてオナニーじゃねぇッ、ガチのうそつきじゃねぇかッ、詐欺! ケチ! おおうそつき!」 熱持つ褐色の体と肘掛けの間に割り込んできた志摩は、すっかり発情に塗れてしとどに濡れている岬の股間へ救いの両手を差し伸べた。 「あ」 「再現されるの、嫌?」 「センセェには、コッチ、ついてねぇだろ……ッ……あ……ぅ……」 自分の指では探りきれなかった場所を。 次から次に快楽を生む淫域を容易く暴かれて。 すぐ背後に居座る志摩に飼い猫みたいに岬は擦り寄った。 「嫌じゃねぇ、して、センセェ……」 「センセェ」 「うん?」 呼ばれて顔を向けた瞬間、志摩の口元に唐突に押しつけられたチーズバーガー。 「この間のお返しだ。犬みてーな真似させやがって」 週末、凍える繁華街を突っ切って、午前中は学校に出ていた志摩の自宅へ岬はやってきた。 最寄りのファストフードで二人分のランチを買い込んで。 「満更でもなさそうに見えたけど」 口の端にバーガーをグイグイ押しつけられながらも無表情、アイスコーヒーを携えた志摩にそう言われて「べ、別に、全然、ちっとも満更とかじゃねぇし」と岬はバレバレのうそをつく。 一口分、志摩がチーズバーガーを齧れば、単なる咀嚼・嚥下にも目線を定められずにそわそわして。 そういえば、これ、間接キスだと思い当たると食事の続行もままならなくなった。 ガラステーブルの上に広げられたジャンクフードの数々。 「これくらいなら、どう?」 摘まみ上げた長めのポテトを志摩に差し出されて岬の吊り目は真ん丸に見開かれた。 「俺はセンセェに飼育されてるわけじゃねーんだからな」 口ではそう強がりながらも、実のところ、淫魔先生に喜んで餌付けされるヤンキー淫魔なのであった。

ともだちにシェアしよう!