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帰りのホームルーム前に設けられた清掃タイム、岬はゴミ捨ての帰りにプチ災難に遭った。 「うわぁッ、センパイ、すみません!!」 校庭の片隅でホース片手にふざけていた一年生の手元が狂い、無駄遣いされていた水が上半身にかかってしまった。 他学年にも名が知れているヤンキー生徒に下級生はペコペコ謝り、びしょ濡れとまではいかなかった岬は「気をつけろよ」とだけ言い捨て、校内に戻った。 そろそろ梅雨明けも近く、今日は昼から晴れ模様となり、セミの鳴き声がしていた。 首に引っ掛けていたタオルで大雑把に頭を拭きつつ、暑さ対策に丁度いいかと、大股になって一階廊下を進んでいたら。 「中村、掃除中に水浴びなんかしてくるな」 口うるさい教師に捕まった。 夏空と入道雲の写り込む窓際まで引っ張られ、向かい合わせにさせられて説教開始、慣れっこの岬が今夜の晩ごはんはどうしようかと献立を考えていたところへ。 「中村岬がどうかしましたか」 志摩がやってきた。 無地の長袖ワイシャツを腕捲りし、プリントが数枚入ったクリアファイルを手にしていた社会科教師の登場に、神経過敏な野良猫並みに岬はビクリと反応した。 「ああ、志摩先生。貴方、今期は中村の担任じゃありませんでしたよね」 「はい。前年度は受け持ちでしたが」 「この制服の着方。いくらなんでもひどすぎる。しかも水浴びまでしてきて、いぬっころじゃあるまいし」 地方一自由な校風の学校では珍しく厳しい教師の物言いに志摩は肩を竦めてみせる。 担任が変わって現在は貴重になっている志摩との校内コミュニケーションに岬はてんぱりそうになる。 「まぁ、確かに、ボタンの開け過ぎ感は否めませんかね」 岬はびっくりした。 近づいてくるなり、クリアファイルを小脇に挟んで背中を丸め、半袖シャツの第一ボタンではなく下のボタンをかけ始めた志摩にかたまった。 「彼が濡れているのはですね。校庭の掃除中にふざけていた一年の巻き添えを食らっただけで、先生いわく、いぬっころみたいに水浴びを楽しんできたわけじゃありません。ああ、上のボタンもかけた方がいいでしょうかね」 岬は教師二人の会話など耳に入らず、伏し目がちにシャツのボタンをかけてくれる志摩にただ釘づけになっていた。 梅雨晴れの午後、窓を開けて風通しはよくしたものの、ジメジメした熱気が鬱陶しい廊下。 指先の些細な感触や息遣いが肌身に伝わってきて思わずゴクリと喉を鳴らしかけた。 ……それ以上のこと、もっといっぱいされてるのにな。 ……急に接近されると心臓がバイブモードみたいになる。 「なにがいぬっころだ」 「……へ? いぬ? 犬のコロ?」 気がつけば厳しい教師は立ち去った後、ボソリと何やら呟いた志摩に岬は首を傾げた。 指定された掃除場所から教室へ戻る生徒が多数いる廊下の片隅、志摩は、毛先が濡れていた白アッシュ頭を撫でた。 「な、撫でんじゃねぇ」 「そうだな、本当、シャツの下のボタンまで外して腹チラさせたりなんかして、風紀を乱す悪い生徒だ」 「……なぁ、センセェ、俺が一年に水引っ掛けられたとこ見てたのかよ?」 志摩は答えなかった。 二年生の教室があるフロアまで岬を隣にして歩き出した。 「追試は満点だった」 岬は……犬のコロならば尻尾をブンブン振る勢いのテンションで志摩を見上げた。 「追試は追試だけど、な。よくできました」

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