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……志摩センセェに褒められた。 ……こんなことなら下手な計画なんか立てねぇで本番で全力出せばよかった。 「わざと赤点取って悪ぃ、志摩センセェ」 志摩と並んで階段を上っていた岬は胸の奥から込み上げてきた謝罪を口にした。 こめかみに噴き出した汗を拭っている生徒を見、教師はフンと小さく笑う。 「本番で満点取ってたらご褒美あげたのにな」 「は?」 窓から西日の差す踊り場、初耳である台詞に岬が立ち止まれば、志摩は薄情にも一人階段を上っていった。 「待て、待てよ、満点取ったらご褒美なんて聞いてねぇ」 慌てて隣に追い着いて腕を掴めば「お前が故意に赤点なんて取ったから今の話は無効になりました」と、しれっと告げられた。 「だから! そんなん一切聞いてねぇ!」 やや後方にいた下級生はギクリとした、教師の腕を掴んで声を荒げているヤンキー生徒に怖気づき、関わらないよう駆け足になって二人を追い抜いていった。 「……ちゃんと聞いてたら、あんな馬鹿みたいな真似しなかったのに」 実際は拗ねていただけなのだが。 志摩はプリントの入ったクリアファイルで白アッシュ頭を軽く(はた)き、岬は伸び気味の前髪越しにしょんぼりした目つきで彼を睨んだ。 「最低点をわざと取ったことは許されないが。可愛い理由に免じて大目に見ておくか」 ……可愛い理由ってなんだよ、俺なりに必死こいてエロエロウハウハ展開狙ったっていうのによ、生半可な気持ちで赤点取ったわけじゃねぇんだぞ……。 「夏休み、お前の行きたいところに行こう」 岬の吊り目がパチクリ見開かれた。 唐突に顔の前に翳されたクリアファイル。 すぐ近くで生徒の笑い声がしている、ざわめきが絶えない校内で。 何とも心許ない死角をつくった志摩は無防備だった岬の唇にキスをした。 「夏休みまでの宿題。どこに行きたいか考えておくように」 すぐに顔を離した淫魔教師は、クリアファイル片手に先に階段を上り終えて自分が受け持つクラスへ去って行った。 階段の途中に取り残されたヤンキー淫魔は志摩の姿が視界から消えても、他の生徒に次から次に追い越されても、なかなか上りきれずに立ち止まっていた。 一瞬の微熱の感触が痕をつけて火照る唇。 鼓膜に刻まれた囁き。 『ご褒美っていうより誕生日プレゼントか』 「……ズリィよ、志摩センセェ……」 岬はタオルで顔を覆った。 真っ赤になった耳は隠しきれず、肌身に浴びせられる西日と相まって焦げつくみたいだった。

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