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「向こうがお前に特別な感情を持っているのは一目瞭然だ」 ソファに押し倒された岬は真上に迫った志摩を驚愕の眼で見上げていた。 心臓と同じくらい唇が鼓動しているような。 傲慢な舌先に喉奥まで虐げられて呼吸を制限されていたため、やっとまともに得た息継ぎのひと時に喘ぎ、吊り目には涙を滲ませていた。 「なんだよ、いきなり……」 散々なキスだった。 それなのに下半身は盛っていた。 「どーしたんだよ、志摩センセェ……?」 淫魔の血を継ぐ体は快感に忠実に、一方で心は置き去りにされて臆する一方だった。 「お前だって」 岬は眉根を寄せた。 レンズの向こう側で仄暗く光る志摩の双眸に否応なしに胸をざわつかせた。 「それ、どういう意味ーー」 出かかった疑問は再び攻め入ってきた鋭い唇によって封じ込まれた。 絶え間なく蠢く舌に口内を占領される。 不躾も甚だしい独裁的なキスに溺れそうになる ……こんなに荒くて乱暴なセンセェ、知らねぇ、初めてだ……。 いつになくサディスティックに振舞われ、不安を掻き立てられるのと同時に、新たに接した志摩の一面に岬は無視できない昂揚を抱いた。 淫魔の血が互いに騒いでいるのか。 共有する本能が目覚めて暴れているのか。 ろくな抵抗も対応もできず、一方的に深々と虐げられていた岬は志摩の背中を怖々と抱いた。 ……ちゃんとセンセェと繋がれるのなら、このまま俺の奥まで食い尽くされても……。 ざわざわとした不安と興奮の板挟みになって、志摩への想いを拠り所にし、岬は身も心も彼に明け渡そうとした。 そのとき。 雷鳴が聞こえた。 そこまで近くはなく、物騒な残響を伴って街に短く響き渡り、そして立て続く雨音だけが耳に残った。 「ッ……」 なだらかな背中に回されていた岬の両手が不意に志摩の胸へと移動した。 距離をとろうと、ぐっと、力をこめた。 「濡宇朗んとこ行ってくる」 絡まり合っていた唇が解けた瞬間、岬は上擦る声色で言った。 「……行って、すぐ戻ってくるから……」 目を逸らし、口を拭った生徒に教師は冷えた声で言った。 「濡宇朗を選ぶのか」 腹の底で増幅していく苛立ちを持て余し、岬の下半身で興奮が露になっていた場所を力任せに握り締めた。 「ッ、痛、ぇ」 「こんなに反応してるくせに奴を迎えにいくわけか」 「ッ……俺のこと……待ってんだよ……」 「俺より濡宇朗を選ぶんだな、お前」 口づけの余韻が鮮明に残る、ひどく疼く唇を親指で強めになぞられて岬は小さな嬌声を洩らした。

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