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11-淫魔ヤンキー、夏休みの思い出をつくる

志摩の背中を見つけた瞬間、岬は思わず彼の元へ駆け寄りそうになった。 体の奥底から込み上げてきた衝動をぐっと堪える。 再び面と向かって拒まれたら心が死ぬと、自制心と防衛本能をはたらかせ、その場で自らに「待て」と言い聞かせた。 「中村ぁ、どしたん?」 「急に壁にくっついて、セミの真似?」 その日は夏休み中の登校日だった。 緩い校風ながらもタトゥーといった過剰な外見改造がされていないかの身だしなみチェック、指定された宿題の早期提出などのため、八月上旬、生徒らは学校へ来るよう義務付けられていた。 岬のクラスは旅行だったりサボリだったりで欠席者がちらほらいたものの、帰りのホームルームまで滞りなく進んだ。 隣の教室から教師の怒号が聞こえてくる中、掃除も済ませ、正午を前に友達と下校しようとしていた矢先のことだった。 「……そーだよ、セミの真似だよ、得意なんだよ」 教室から廊下へ出てみれば数メートル先を志摩が歩いていた。 たった三秒の間、いろいろと葛藤した末に岬は教室へ後戻りして壁に張りついたわけだ。 そっと顔を出して慎重に窺ってみれば突き当たりの角を曲がる寸前の志摩が見えた。 片方の肩に左手をあてがい、やや斜めに傾けた首を気怠そうに回す横顔を最後に、角の向こうへと消えていった。 ……疲れてんのかな、志摩センセェ。 ……夏バテしてなきゃいいけどよ。 「なぁなぁ、それってミンミンゼミ? アブラゼミ? クマゼミ!?」 「ミーンミンミン!!」 次から次に背中にくっついてくる友達もそのままに岬はため息を苦々しげに呑み込んだ。 十七歳になって半月が経とうとしていた。 雷鳴のする夜、志摩の部屋を立ち去って以来、岬は行き場を失った彼への想いをずっと持て余していた。 ……泣いてはいねぇけど。 ……泣いたって何も変わんねぇし、きっと疲れるだけだし。 そういや最近で泣いたのっていつだ、ガキの頃から注射も平気だったし、しょっちゅう一人で留守番しててホラー系の番組も一人で見てた。 痛みとか恐怖で泣いたって覚えはねぇ。 志摩センセェはいつ泣いたんだろう。 俺と同じ年の頃、家族との間に決定的な溝ができたとき、泣いたりしたのかな……。 数時間前に友達と昼食を共にしたときも、家路についても、あの夜から延々と上の空でいる岬は喉奥に閉じ込めていたため息を解放してやった。

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