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「岬、豚汁食べたい、豚汁作って」 悠々と寛ぐことのできるL字型ソファ上でクッションに埋もれていたヤンキー淫魔はもぞりと顔を上げた。 「今日は豚汁作る気分じゃねぇ、百合ちゃん」 本日、ホストとホステスが混在するという摩訶不思議なクラブ「アウェイク」は定休日であり、珍しく日がな一日自宅にいる自称・母親の百合也は我が子のそばに腰かけた。 「そもそも材料ねぇし、暑ぃ」 「そう。何の材料だったらある?」 「あー……忘れた……」 見晴らしのいいマンション上階で父と子の二人暮らし。 家事全般を難なくこなす子によっていつもきちんと片づけられているリビングは夕日に浸されつつあった。 「鰻でもとる?」 普段であれば海外のハイブランドに彩られているフェイスが今はきめ細やかな素肌を曝け出していた。 アイラインの映える切れ長な双眸は涼やか、ハスキーボイスを紡ぐ唇は自然な地の色味で落ち着いている。 岬とお揃いの白アッシュ髪は無造作にポニーテール結びし、ゆったりした長袖シャツにルームパンツ、いつだって中性的な褐色美形の父は早めの入浴を終えて寝転がる我が子を繁々と見下ろした。 「志摩先生とケンカでもしたの?」 前の岬ならば顔を真っ赤にして「は!? んなワケねぇだろ!! テキトーなことぬかすな!!」とムキになって言い返していただろう。 「……別に……」 岬はそれだけポツンと零して虚空を力なく見つめた。 今日は半日で済んだからよかったけど。 二学期始まったらどうすっかな。 志摩センセェの授業、どんな顔して受けりゃあいいんだ。 怖い。 何もなかったみたいに淡々と振舞われたら、テキスト音読の指名なんかされたら、さすがに泣くかもしれない。 「俺ってなんだろ」 スパイシーで刺激的な香りをほんのり漂わせる百合也に岬は言った。 「人間なのか淫魔なのか、男なのか女なのか、自分が何者なのかわかんねぇ。ある意味、こんなの雑種だよな」 たくさんのクッションに埋もれている岬に百合也はつい微笑む。 帰宅してみればお気に入りのヌイグルミをそこら中に侍らせてスヤスヤ寝ていた小さい頃の我が子を思い出し、その頭をよしよしと撫でた。 「……ンだよ、やめろよ、百合ちゃん」 「岬はね、私の美点が集まってできた結晶。貴方の一つ一つ、私にとってかけがえのない宝石たち」 「……やめろやめろ、こっぱずかしい」 照れた岬はクッションの一つに深々と顔を埋めた。 左耳に光るブラックダイヤモンドが視界に誇張されて百合也はふと唇を閉ざす。 「……豚汁っつったらやっぱサツマイモだろ、もうちょっとしたら買い出し行ってくる」 くぐもった声で岬がそう言えばふわりと顔を綻ばせた。 「里芋でもジャガイモでもいい。私も一緒に行く。岬の好きなクリームプリン、買って帰りましょう」 「……クリームプリンはしばらく食わねぇ」 「そうなの? 太ったの? ダイエットするの?」 「別に太ってねぇッ!」 「あら。お腹、ぷよぷよしてる」 「し……してねぇッ、くすぐってぇ……!」 百合ちゃんは「選んだ」ことがあったんだろうか?

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