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「一番しっくりくるのは阿久刀川に拉致された、とか」
……そうか、そーいうことか。
……阿久刀川サンは俺が志摩センセェを探しにきたって勘違いしたわけか。
「センセェ、ここの会員なのかよ」
「会員じゃない。阿久刀川の知り合いってことで顔パス扱いさせてもらってる」
横を向いていると、隣の隣の客も岬の視界に入る、お一人様の彼女はオレンジの香る琥珀色のアドニスを丁寧に味わっている、たまに二言三言、志摩と言葉を交わすこともあった。
隣の女の人も顔見知りみてぇだし、志摩センセェ、スタッフが顔認識できるくらいこのクラブにしょっちゅう入り浸ってるってことか。
阿久刀川サンや他の誰かと一緒に来たり、酒飲んだり。
次のセフレなんか見繕ったり……。
いや、今度こそ恋人とか……。
「こんな場所の常連サマとか、さすが、高校生で夜の街闊歩してただけあるよな」
あーあ。
何言ってんだ、俺。
俺の前では酒の一滴だって飲まなかったセンセェが、有名な人気クラブの常連で、アルコール度数まぁまぁなカクテル飲むって初めて知って、いちいちショック受けて。
馬鹿みてぇ。
久々に話ができた、普通に接してくれた、そんな小せぇことで浮かれて、しょうもねぇ。
センセェにとって俺は簡単に切り捨てられる存在なのに。
「そのドリンクチケット。阿久刀川にもらったんだろ」
志摩は岬の嫌味をスルーし、カウンターに置いていたドリンクチケットを拾い上げた。
「薄めのカルピス頼んでやるから」
は?
なんでカルピスなんだよ、嫌いじゃねぇけど、そもそも置いてねぇだろ、しかも薄めとか意味わかんねぇ、せめてジンジャーエールくらいにしろよ。
「すみません、ジンジャーエールをお願いします」
岬はフンと顔を背けた。
バーテンダーから志摩が受け取り、手元に置かれると、すぐに翠緑の瓶を持ち上げて喉に流し込んだ。
いつもより強烈に感じる炭酸。
口の中で弾けて清々しく洗われるような心地に澱んでいた思考が少しだけクリアになった。
志摩センセェとはキスもしたし、それ以上のこともした。
でも「好き」って言ってない。
言われてもいない。
本番もしてない。
意味わかんねぇままに拒まれた。
「それ飲んだら帰るように。サツマイモの豚汁は夕食っていうより夜食になりそうだな」
今、こんなに近い。
肩と肩がくっつきそうだ。
フロア中、音楽でいっぱいでタバコや香水のいろんな匂いが充満してる。
でも、すぐ隣にいる志摩センセェの体温や息遣いが一番リアルで。
やっぱり好きだ。
拒まれたけど、俺だけセンセェのこと好きでい続けても別にいいよな、志摩センセェ?
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