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「まだ一緒にいたい」 仄かに感じていた熱気が志摩の掌から肌に伝わって、骨身にまで染み渡るような気がして。 岬は眩暈を覚えた。 頭の中がぐるぐると渦巻いて、混乱し、同時にかけがえのない昂揚感が湧き上がってきて体中すんなり発熱させた。 「センセェ」 震える声で呼号した生徒に志摩は正直に告げる。 「あの店でお前を見つけたとき、俺に会いにきてくれたのかと思った」 忙しげに波打った吊り目を眼鏡のレンズ越しに見つめ、握った手を離そうとせず、淡々と続ける。 「終業式の夜、自分から撥ねつけておきながら浮かれた。でも濡宇朗を探しにきたって聞かされて、がっかりした。馬鹿な勘違いをした自分がひどく身勝手で惨めに思えた」 クラブのバーカウンターで志摩に無性に触れたくなったとき、岬は、そんな自分自身を馬鹿だと罵った。 まさか当の相手まで似たり寄ったりな最低な気分に陥っていたなんて知る由もなかった……。 「それなのに」 普段と変わらない志摩の声が店内の静けさをゆっくりと掻き回していく。 「カウンターにいた隣の客をやたら意識して、この後の予定を頻りに気にされて、ワケがわからなくなった。濡宇朗を探しにきたくせに、俺を選ばなかったくせに、一体お前は何を考えてるんだ。そう、思わずあの場で言いそうになった」 「言えばよかったじゃねぇか」 思ってもみなかった胸の内を打ち明けられ、動揺する余りリアクションに迷い、ついつい喧嘩腰になって岬は志摩を睨んだ。 どんな顔をして聞いていたらいいのか、わからなかった。 繋がった手の熱さに心臓まで溶かされそうで、気を抜けば、心身ともに崩れ落ちてしまいそうだった。 「岬、早く行こ」 もう片方の腕にしがみついていた濡宇朗が岬を連れて行こうとする。 すると志摩はさらに掌に力を込めて岬をその場に繋ぎ止めた。 「怖かった」 より一層増した熱に立ち竦んだ岬へ、今まで抱いてきた恐れを一つずつ綴って明かしていく。 「お前と濡宇朗の間には入り込めない空気があった。迂闊に立ち入れない境界線が俺の前に居座っていた。親鳥と雛みたいにお互い守り合って、その領域を見せつけられる度に不安になった」

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