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形振り構わずに伝えたくなるほどの愛執 に忠実になる。
どちらかと言えば黙秘を強いてきた唇にありのままの本音を志摩は託した。
「まだ十代だ、同じ年頃の相手の方がいいに決まってる、そんな真っ当な理由づけをして諦めようとすればするほど、俺のことが必要だったんじゃないのか、いつでもずっと相手してくれるんじゃなかったのか、そんな遣り場のない執着心に雁字搦めになった」
無様に足掻いてでもそばに引き留めておきたい想い人など、岬と出会うまで、いなかった。
「一回りも年下の奴に振り回されるなんて俺の柄じゃない、そう思わないか?」
「俺が知るかよ」
岬はかろうじて憎まれ口を叩いた。
口頭による台詞だけじゃなく、重なり合った掌からも志摩の気持ちが互いの熱に溶けて我が身に流れ込み、心臓にまで届いたようなーー
「センセェも俺に未練あるのかよ」
濡宇朗は隣で押し黙り、黒須が背後で見守る中、岬は問いかける。
「俺のこと簡単に切り捨てたんじゃなかったのかよ……?」
志摩は首を左右に振った。
痛々しく腫れてきた岬の片頬に目を留め、握り締めた手を引き寄せた。
「未練しかない」
ーーずっと渇いていた。
夏休みが始まって入り浸るようになった「USUAL」のバーカウンターで。
どれだけグラスを交換しても一向に満たされなかった渇き。
潤してくれるのは一人だけだった。
「岬、俺のことなんか庇わなくていいよ」
志摩は夜気に熱せられた頬を岬の手に押し当てた。
……志摩センセェも俺と同じだったのか。
……一人で不安がったり、怖がったり、淋しがったりしたのか。
「俺はさ、お前の唯一になりたいんだ」
耳たぶの隅々まで紅潮させて閉口した岬に志摩は願う。
「どこにも行かないでくれ。俺と一緒にいてほしい」
あの雷雨の夜に言えなかった願いを愛しい淫魔に今夜やっと伝えた。
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