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ノーメイクに部屋着のままの百合也が「UNUSUAL」にやってきた。 白アッシュ髪は完全におろされて背中にかかっている。 上下ゆったりの服にピンヒールのストラップサンダルを合わせた彼は、小気味よい靴音をフロアに響かせ、岬の鼻先にスマホを突きつけた。 「お、俺の……」 「なかなかどうして帰りが遅いから早く豚汁作るよう催促しにきたわ」 「わ、悪ぃ、百合ちゃん」 「スマホは阿久刀川さんから受け取ったの。で、私の電話に出たのも彼」 阿久刀川は百合也の隣にすっと並んだ。 二人して180センチ越え、本来ならば5センチの身長差が存在していて百合也の方が低い、しかし今はヒールの高さが加わってほぼ同じ高さにある。 傍目には迫力すら感じられる、実に絵になる長身の美男美女であった。 実際には美男美男なのだが。 「あの後、あのプラチナ会員様はすぐ帰られてね。ソファの下にまでガラス片が落ちていないか念のためチェックしてみたら、見覚えのあるスマホが隠れていたわけだ。心細そうにガタガタと震えながらね」 拾ってくれた礼を岬が言う間も与えずに阿久刀川は流暢に話し続ける。 「画面に<百合ちゃん>なんて表示されてるから、てっきりガールフレンドかと思ったよ。それがまさかあの革命的遊び場なる<アウェイク>の主人、<Lily(リリー)>からの電話で、しかも岬くんのパパママだったなんて、どうして今の今まで教えてくれなかったんだろうね?」 阿久刀川に問われて岬は「聞かれたことねぇし」と、しどろもどろに答えた。 「痛そう」 百合也は教師の志摩に挨拶するよりも先に我が子の顎を持ち上げ、頬の腫れを確認した。 「久し振りの生傷ね」 「おとう……百合さん、彼がケガを負ったのは私の責任です、申し訳ありません」 いざというときのため、厨房から武器代わりのスキレットを持ち出してきた黒須の元へ阿久刀川がにこやかに歩み寄る中、志摩は百合也に深々と頭を下げた。 岬は痛みに疼く頬を不服そうに膨らませた。 「志摩センセェは悪くねぇ」 「岬、買い物に出かける前まではシュンとしてたのに」 「急になんだよ」 「長い寄り道してると思ったら、こんなにも懐かしい生傷までつくって、すっかり復活したみたい。夏休みに先生に会えたのがよっぽど嬉しかったのね」 「別に嬉しかねぇ!!」 つい先程までピンと張り詰めていた空気が嘘のような、和気藹々としたムードに包まれた真夜中の洋食レストラン。 そして緊張感に漲る空気をつくったはずの張本人はというと。 「阿久刀川さんから聞いたの」 百合也が店内に姿を現すや否や、あれだけ執着していた岬から即座に離れ、脱兎の如く奥へ。 「濡宇朗っていう名の淫魔がヒトに牙を剥いたって」 深紅の帳を潜ってVIP席に駆け込み、頑なに息を殺していた。 「相変わらずね」 岬は耳を疑った。 自分とお揃いの白アッシュ髪を勇ましく翻し、店奥のVIP席に向かってツカツカと歩き出した百合也の後を慌てて追いかけた。 ……相変わらず? ……百合ちゃん、濡宇朗のこと知ってるのか?

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