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13-淫魔ヤンキー、もう卒業式

「卒業生一同、起立」 「……おい、早く立てよ、居眠りしてんじゃねぇ」 「はぇッ、ッ、み、みんなでパン工場に行って学んだ社会科見学!!」 「ッ……みんなでリレーや玉入れを頑張った運動会!!」 「……今は高校の卒業式だぞ、二人とも小学校に逆戻りしてんじゃねぇ」 寝惚けたクラスメートが小学校時代に暗記させられた「お別れの言葉」を大声で述べ、居眠りしていたもう一人までつられてしまい、そばにいた岬は呆れ果てた。 体育館の壁際で待機していた生活指導の教員が直ちに飛んでくる。 自分までとばっちりを受けて怒られると、憤慨したものの、ヤンキー淫魔は黙ってフンと顔を背けた。 「中村岬は二人を起こしてやっただけなので。彼を叱るのは筋違いです」 続いて担任の志摩がやってきた。 クラスメートの失態に大爆笑している教え子達に静かにするよう人差し指を立て、とんだ失態を犯した張本人の二人を淡々と注意した。 「明日の本番で今みたいなミスは勘弁してくれ」 三月最初の日曜日、岬の通う学校では卒業式が執り行われる。 その前日となる今日、予行練習が午前中に実施されていた。 大まかな進行の流れを把握するため、入場に校歌斉唱など、一部の在校生も参加して行われ、終盤間際に起こった珍事には多くの生徒が「ウチの学校らしい」とのほほん和んでいた。 「俺の学級委員長は面倒見がよくて頼りになる」 志摩はそっぽを向いていた岬の肩を叩き、教師の定位置となっている体育館の壁際へと戻っていった。 「中村ぁ、ごめんな」 「なんでもっと早く起こしてくれなかったわけ」 「お前らなぁ、明日の本番では志摩センセェの顔に泥塗るんじゃねぇぞ」 「ひ……ッ」 「え~、どの口が言ってんだよ~、一年の頃は志摩のこと目の敵にしてたじゃん、志摩相手に超イキってたくせに~、泥団子投げまくってたくせに~」 一年の頃も同じクラスだった生徒にそう言われ、正にぐうの音も出ないヤンキー淫魔なのであった。 「やばい、明日泣くかもしんない」 「校歌覚えてない奴が言う台詞?」 「校歌って四番まであるんだな、知らなかった~」 「卒業生に卒業式前日まで掃除させる学校、草」 学校で最後の大掃除を終え、卒業式本番を明日に控えて下校した三年生。 「マジで無人島行くつもりかよ」 「うーん、無人島ってどうやって探せばいいの?」 「ドローンで探せば」 「ドローンってどれくらい飛ぶ? 海超えれる? 外国までもつ?」 「中村は頭いいのに大学進まなかったんだな」 学校生活を共にしてきた仲のいいグループとファミレスでランチを共にしていた岬は、ステーキ丼をかっこみつつ、頷いた。 「なぁなぁ、家事手伝いって家政夫さんになるってこと?」 「ッ……」 「わぁ、中村が喉詰まらせたぁ、ほらほら、これ飲んで」 「ッ……何種類ミックスさせてんのかわかんねぇ、変な色の飲みモン飲ませんじゃねぇ」 ……ある意味、家政夫になるのか? ……専業主夫になるのか? 『具体的なことは卒業式が終わったら二人で考えることにして。卒業式までは高校生らしく学校生活に専念しなさい』 明日で高校生じゃなくなる。 志摩センセェは俺の担任じゃなくなって、新しい関係が始まる。 薄っぺらなスクールバッグを肩に引っ掛けた岬は友達と別れると「UNUSUAL」へ寄り道した。

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