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その日の夕食は、この頃メキメキ料理の腕を上げた、すずいの作った空の大好物であるオムライスだった。 空は大喜びだったが、何時だって何を食べても喜ぶので、そんなに飢えてるのかと笑ってしまうが、確かにすずいの料理は格段美味くなっている。 だけど今日の俺は半分以上食べ残して、席を立とうとしたのですずいが不満を零した。 「お兄ちゃん、全部平らげてよ。残すの勿体ないでしょ?」 「あー、夕方バーガー食ってきたからもういいわ……」 エアバーガーかよ……、最近、嘘がするりと口から出だした、でもこの場合white lieだからいいよな? 「んじゃ、僕食べていい?」 呑気そうに空が言う。 「いいよ」 「いっただきまーす!」 既に、皿を手元に持ってきていた空は、俺の食べ残しのオムライスをスプーンで掬って嬉しそうに頬張った。 そんな空の様子を見ていたすずいは、不満そうな表情をしながらも余りにも喜ぶ様子を見て、諦めたように黙ってしまい、俺は部屋へと戻って行った。 食事をしても、風呂に入っても、当然ながら頭に浮かぶのは下校時に見た、潤と静月の腕を組み仲良さそうな様子だった。 潤が微笑むと、静月は微笑んでそれを見守る……、何とも親密そうな二人を思い出しては胸が痛んだ……。 マジでもう忘れよう……、誓ったじゃないか、もう彼奴には近寄らせない……近寄らないって。 うん、忘れよう。 俺は能天気さがウリだったろ? きっと忘れられる。 大丈夫だ、何時か思い出したら笑える日が来るだろう……。 俺はベッドでゴロゴロしながらスマホを手にすると、漫画でも見て眠ろうと思い画面を開いたら、大河がブログを更新していたのを見つけて開いてみた。 すると、そこには内容も書かれていないタイトルだけの動画が一件アップされていた。 なんだろ? 再生してみると、そこには……。 うげっ! 画像は荒かったが、一人の薄汚れた男が自分の頭を切り裂いて、脳みそを取り出す……、そんな映像が淡々と流れていた。 映画かこれ? まさかリアじゃないよな……リアルにも見える凄まじいグロテスクさ……。 ただ数秒見ただけでもトラウマになりそうなくらいグロい映像に、そういう系が苦手な俺は鳥肌ものだった。 「うわぁー、なんだよこれ!マジやば、文句言ってやろ!」 俺は速攻、大河にラインを送った。 『てっめぇー!何アップしてんだよ!眠れなくなるじゃねーか!!』 すると、すぐに既読になり返信が返ってきた。 『ニコニコぷーん!』 「腹立つーーっ!!!」 大河のしてやったり顔がチラつき、俺は腹立ち紛れにスマホをベッドに投げ出した。 うーむ……怖えーっ……、映像が頭から離れない、どうしてくれる大河よ。 夜中のトイレとかチビリそう……。 俺は枕を手に取ると自室を抜け出し、隣の部屋へとやってきた。 そして、くーすか眠ってる空を脇に寄せて自分のスペースを確保すると、枕を置いて布団の中へと潜り込んだ。 猫のように丸まって眠っている、ほのかな空の体温が暖かく、現実味を帯びていて何だか安心できて、ほっと一息をつく。 ふー、安泰、安泰、これで化け物も怖くない。 いや、あれは化け物でも幽霊でも無いけどさ……、どっちでもいい、怖いのは一緒だ。 暗闇を怖がる空の部屋の、天井にぶら下がる地球儀型のペンダントライトが、壁に落とした大陸の影を見ながら、ふと親父は今頃いったいどこに居るのだろうかと、この前会ったのはクリスマスだっけかな……、そんな思いを馳せているうちに眠りについたのだった。

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