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122 <SIDE> 静月凌駕

「あ~あ、葵ちゃん行っちゃったよ、しかもメッチャ怒ってるぽい」 後ろの女子軍団の中から出て来た啓介が、朝から棒キャンディーをペロペロ舐めながら俺にそう言った。 長めのプラチナブロンドが朝日を受けて光っている、コンタクトが薄いグレー色なのでどう見ても外国人にしか見えない。 髪の毛を染めてなかったら、育ちの良いイケメン高校生なのに、長い前髪を女子にピンで止めてもらいながらキャッキャと喜んでいるチャラい姿は、将来警察キャリア官僚を目指してる男とは到底見えやしない。 「まあ、美人だから怒らせてもそれはそれで綺麗で、凌の気持ちも分からないでもないけどね」 啓介は葵の後姿を見ながら、俺の心を代弁するようにそう言った。 そう、葵は怒っても笑っても、快楽に震えていても何時だって俺の心を惑わす程に美しい……。 そして意外だったのは、その派手な見てくれに騙されたが、想像していたよりずっとピュアな性格だった。 「だけど凌に対してあれ程敵意丸出しで怒る奴も見たことないよな、大抵はヘコヘコゴマするような奴しか居ないってのに、葵ちゃんは本気で激怒してるもんな、それがまた可愛いんだろうけど」 そう言いながら、ケラケラと笑う啓介の言うことは当たってる。 俺の回りは極わずかな親友を除くと、俺がもし正しく無いことを言ったとしても、それを肯定する奴らが多い、でも葵は俺の行動に対して嫌なことは嫌だとはっきり言うし、俺の態度が悪ければ思い切り罵倒する。 俺の顔色なんか伺いやしない。 そして今の葵はプンプン怒っているし、まやかしだと思っている俺の言葉を聞く耳を持っていない。 「まあ、すべては凌が悪いけどな」 さっきまでの冗談交じりの会話から一変、啓介は真面目な顔をしてそう言った。 ……分かってる。 俺が悪いんだってこと。 葵に触れて、抱きしめて、その匂いをかぎたい思いは募るばかりだ。 最初はお互い遊び人同士だし、都合が良いと思ったのは確かだが、葵はその想像を超えて俺を惹きつけた。 良くも悪くも天真爛漫で、欲に溺れるとあっと言う間にプライドも投げ捨てる奔放さで、その牙城を崩す甘美な楽しさを味合わせてくれる。 だけど、それは長所でもあり、致命的な葵の短所でもあった。 昨日はとうとう堪えきれずに乱暴なことをしてしまったが、あれは葵も悪い、思い出すのも辛いが葵はどうやら来栖と寝てしまったようだったからだ……。 俺のモノになると約束した筈なのに、あっと言う間に反故された。 ほんとうに悔しい……、少し目を離すとこれだ。 葵はビッチだ……。 分かってた筈なのに俺が受けの快楽を教えてしまったから、相手は誰でもいいと思うような輩と同じく、誰とでもイージーに身体を重ねるのは目に見えていた。 クソッ……。 できるものならあの白く滑らかな肌に首輪をつけて鎖で繋ぎ止めておきたい。 誰にも会わせず、俺だけを見て、俺だけを崇めるよう外界から遮断して、鳥籠の中へ閉じ込めて俺だけの物にしておきたい……。 そんな、かって抱いたことの無い倒錯的な考えに苦笑する。 どうかしてる……、だけどそんな風に思わせる葵は、夢の中でさえ俺を惑わし続ける……。 そして、俺は葵をベッドの上に捩じ伏せて、精が尽きる程抱き倒したいだけのただの高慢な男なのだ……。

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