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その日、4限目が終わったと同時に、担任に職員室へ呼び出された。
なんだろ?
恐る恐る職員室の扉を開けると、俺に気付いた四十代半ばの生え際に白髪が混じり始めた、ちょっとくたびれたような担任が手招きをする……、ふとそのデスク横に立っている人物に目をやると静月だった。
……。
うーむ……、いつも通り嫌な予感しかしない。
「河野、この前の数学の抜き打ちテストだけど、基本は解けてたが応用問題が全くだめだったぞ、流石の静月もそこまでの底上げは難しかったと見える」
そう言って担任が苦笑いし、静月が頭を下げた。
「僕の教え方が不十分だったようで申し訳ありません」
静月は素直に謝ったが、おまえ殆ど勉強なんかしなかっただろぉぉぉ!
「いや、静月が悪いんじゃないさ、寧ろ貴重な時間を割いてくれてすまないと思ってる、ありがとうな」
「いえ」
「ただ、河野……、お前は次の期末テストで赤点取れば夏休みの補習は間違いないぞ」
「えーーー、マジかよ!!!」
「マジだ」
担任が笑いながら俺の真似をしつつ、容赦無く言った。
夏休みの補習と言えば、時間は半日ではあるが、ひと夏中学校に来て勉強をしなければならない、そんなの有り得ない!
「しかもお前は授業サボりの常習犯だし、課外授業も受けてない、ボランティア活動もしていないし、当然ながらクラブも入ってない、内申書を底上げできる要素がひとつもないんだよな……、このままでは夏休みの補習はおろか、進級でさえ危ないんじゃないか?」
げっ……、確かにそうだが、俺はスロースターターなので、明日から頑張るタイプなんだよ?
でも、教師の言う夏休みの補習が、現実味を帯びて頭をぐるぐる駆け巡る。
ないないない、夏休みを勉強して過ごすなんて、俺の辞書には無い!
夏は海行ってナンパして、女の子といちゃいちゃして……、そんな夏希望です!
折角の夏休みを無駄にするわけにはいかない。
ここはひとつ頑張るか俺……、ちょっと頑張ろうか?
そう返事しようと口を開きかけた時、横から静月の声がした。
「先生、僕もう少し河野君の勉強見ましょうか?まだ、完全に理解して無さそうなので、僕も責任感じますし」
「いや、いい!」
「そうか?」
俺の焦った叫び声と、静月の一声を待っていたかのような先生の嬉しそうな声がダブった。
「俺も自分のクラスから落第生を出すのはどうしても避けたい、静月がそう言ってくれると助かるんだが」
「先生の気持ちは十分わかります、僕だってクラスメイトが落第するのを、何もしないで見てるのは忍びないですから」
「あのなぁ~、俺が落第すると決めつけないでくれる?」
俺は静月を睨んだ。
「いや、このままじゃ、落第決定だな河野」
先生が俺に容赦なく死刑宣告をした。
うぅぅ……。
「大丈夫だよ、僕が教えてあげるから、心配ないよ」
いや心配だろ!
微笑みながら俺を見る静月の、先生を巻き込んで俺と接点を保とうとする、澄ました顔が憎たらしかった。
こいつほんとに殴りたい……、でも反対に殴り返されそうだけど……。
「悪いな静月、頼りにしてるぞ!」
「はい」
「いいってば!」
「じゃ、落第するか?」
教師が俺をジロリと見た。
「う……」
それだけは避けたい……、ああ……でも夏休みが……。
「じゃあ、決定だな、静月頼んだよ」
「任せてください」
教師は責任を静月に任せてホッとしたのか、晴れやかに微笑んだ。
くそぉ~!
そして静月は微笑んでいる。
どうしてこういうことになるんだろう、静月と接点を断ち切ろうとしても切れやしない。
まあ、マジで勉強とか見て貰うつもりは無いけどな。
もう無理、静月と勉強なんて絶対に無理!
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